珍しいこともあるもんだなと思ってメールを開く。
っていうか、深夜二時半とかアイツはそんな時間まで何してるんだと思っていたから、本文を読んで盛大に吹いた。
「はっ?いきなり夜行バス乗って東京に向かってきてるとか……十時には着くって、え?何やってんだ……」
全国大会へ向けての練習もきつくなってるだろうに。こんな時に大阪から東京に来るだなんて、バカなんだろうか。
「……って、詩織の様子がおかしいって……」
それだけの理由でそんな行動に出たのか。
その事実が俺の中にモヤモヤを落とした。
まず詩織のことも気になったが、だけどもし俺が財前の立場だったとしたら、行動にうつせただろうかと悩む。
悩んでいる段階で、俺は財前と違うし、そして詩織への気持ち的に負けてるんじゃないのかと胸が苦しくなった。
「……午前中に詩織に会って、そのあと、お前らに会いたいって……」
お前ら?と疑問に思って、このメールの受け取り先を確認する。
そしたら、俺と伊武と切原に送られていた。
伊武はわかるとして、なんで切原……。いや、確かこの間の合宿あたりから会話回数とか増えていた気がするからそのせいか。
≪日吉や不二裕太には送らないのか?≫
≪その二人は怪しいねんなぁ……。まぁ、あれやな。室町のおかげで思い付いたわ。他の二年にも声かけるで。この間の合宿参加しとった学校の二年はもれなく全部な≫
あのニヤリと意地悪そうに薄く笑う財前の表情がすぐに浮かんだ。
それよりも、日吉や不二裕太が怪しいなんてどういうことだろうか。
首をかしげてから、ざわざわと胸の奥がうるさくなった。
「……詩織がもしかして誰かを」
好きになったとしたら、どうしようか。
それだけ考えて、頭のなかが真っ白になったような感覚に陥った。
妙に静かなのに、思考が停止状態になる。
「……あ、やべっ」
じわっと熱くなった目頭を慌てて指でこすって拭った。
濡れた指先にため息だけが漏れる。
ひとまず練習に行かなくては。
部活の用意をして朝御飯を食べてから家をでると、また一段と夏の日差しが強かった。
照り付けるような日差しにサングラスをかけ、ふぅっと深呼吸をする。
≪おはよ……。あのさぁ、二年全員って、俺の学校からだと、橘さん以外全員なんだけど?……室町んとこは二人で切原は一人だろうけどさぁ……≫
≪おー、そのほぼ全員をよろしくな。あと、ネット予約してとりあえずファミレスとカラオケ屋予約したわ≫
≪ファミレスは昼飯だとして、カラオケはなんだよ。てか、夢野になんかあったのかよ!詳しく話せよな!≫
伊武と切原も財前のメールに振り回されてるようだった。
もう一度だけため息をついて、詩織のことを考える。
「……まだ、チャンスはあるよな……?」
ぽつりと呟いた台詞はセミたちの鳴き声にかき消されたのだった。
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