俺が奪ってあげる
カルピンを追いかけてきたら、詩織センパイに出会った。
驚いたけれど、不二先輩にプールで遊んでる写真を見せられてから会いたいと思ってたからちょうどいい。直接問いただしたかったから、メールや電話は嫌だったんだよね。
でも並ぶようにあの氷帝のキノコみたいな頭の人もいたから、余計驚いた。
それからよくわからないけど、何かが俺の中で芽生えた気がする。モヤモヤとした薄暗い感情。

「詩織センパイと、日吉さん、だっけ」

確かそんな名前だったよね?と首を傾げたら短く「あぁ」とだけ答えてきた。
そういえば、この人、俺のこと眼中にないんだよね。跡部さんって人や幸村さん、不動峰のぶつぶつうるさい人、四天宝寺のピアスの人、不二先輩の弟とかのことは気にしてるみたいなのに。

「……それはムカつくかな」

「?リョーマくん、何か言った?にしてもさっきのがリョーマくんのカルピンちゃんかぁ。くそう、もふりたかった!」

手で空中を撫でるようにしてみせてから、詩織センパイはいつも通り何か言ってた。相変わらずうるさいというか忙しない。

「……で、二人は今まで何してたわけ?」

「宿題!」
「俺の家でな」

元気よく答えた詩織センパイの台詞に被せるように言ったけど、家でって言ったのははっきりと聞こえた。
俺のこと気にも留めはしないけど、一応牽制しておくってことか。ふーん。面白いじゃん。

「……じゃあ今は帰り道なんだ?それじゃあさ、カルピン探すの手伝ってよ」

「は?なんで俺が──」
「見つけたらカルピンちゃん、ナデナデもふもふしていい?!」

「うん、好きにしたら?」

「若くん!!」

「……はぁ、わかった。手伝えばいいんだろ」

ため息混じりに頷いて詩織センパイの頭をポンと軽く叩く。
それに対して詩織センパイも嬉しそうにへらへら笑ってて。
また何かきゅうって胸の辺りが締め付けられた。

「じゃあアンタはそっちで」

「ちっ、アンタ呼ばわりか……」

公園の奥を指差したら盛大に舌打ちされる。

「詩織センパイはこっちをお願い」

「オッケー!任してちょんまげ!」

「……相変わらずアホっぽいよね」

「な、なにをー!私がカルピンちゃんをもふもふするんだもん!」

それから詩織センパイには公園入り口の草むらを指差した。
鼻息荒くしゃがみこんで草むらに入っていった詩織センパイに口角が上がる。

「じゃあ俺、あっち探すから」

「わかった」

公園の奥といっても日吉さんに指差した方とは真逆を指差して。
頷いて奥に走っていった日吉さんの背中を見ながら舌を出す。
それから草むらをかき分けて、詩織センパイがしゃがみこんでいる隣にしゃがみこんだ。

「あれ?リョーマくんもこっち?」

「そっ」

コクりと頷いてもう少し詩織センパイに近づいた。ふわりと漂ってきた香りが、詩織センパイのいつもの匂いにお香を混ぜたかのようなもので、あの人の匂いかと眉間にシワを寄せる。

不二先輩からプール写真を見せられた時も嫌な気分になった。
何よりその写真の中の詩織センパイはポニーテールにしてて、可愛かったから。
俺らしくもない思考だなって肩を竦めてから、携帯電話を取り出す。

「ねぇ詩織センパイ。カルピンを探してるとこ、写真に撮らせてよ」

「へ?なんで?」

「いいから、ほら」

ここを見てと斜め上に掲げた携帯電話のカメラを指差す。

「しょうがないなぁ……」

四つん這いの詩織センパイが顔をあげて、カメラに向かって頬笑む。いつもより唇が濡れているように見えて、何か塗ってることに気づく。
それに今日はポニーテールじゃないけど、二つに束ねてるんだなと目を細めた。

「ねぇ詩織センパイ」
「え、何?っ──」

トントンと肩を人差し指で叩いて、写真を撮られると思っている詩織センパイを横にいる俺に振り向かせる。
そして柔らかい唇に自分の唇を重ねた。
振り向き様にいきなりしたものだから、詩織センパイは反応できなかったようだ。
それから同時にシャッターボタンを押した。
カシャッと大袈裟な音がその場に響く。

「……写真ありがと」
「え、は……?」
「可愛く撮れてるよ、ほら、俺とのキスシーン」
「っ、ま、待って!りょ、リョーマくん?!な、何をっえ、なんで?!え?」

ひどく狼狽えている詩織センパイに肩を竦めてから、携帯の画面をみせてあげた。
はっきりと、俺と詩織センパイが唇を重ねているところが写っている。

「なんで……?!い、悪戯にしちゃ趣味が悪いよ?!」

「悪戯のつもりはないんだけど。や、まぁ面白いかなって思った」

「人はそれを悪戯と呼ぶのだよ、リョーマくん!いや本当になんで、え?!」

そして全然面白くないから消して!と大声でそう言われて。
わかったわかったと言いながら、携帯電話をポケットにつっこむ。

消すわけないじゃん。
だってこれは人に見せないと面白くないものだから。
数人の反応を想像して、くくっと肩を小刻みに震わせた。

「おい、この猫だろ」

そしたらカルピンを抱いた日吉さんが戻ってきて。
俺は帽子を深くかぶり直しながら、草むらから立ち上がる。

「カルピン!……ありがとっす」

カルピンを受け止めてから、日吉さんに頭を下げた。
それから手をヒラヒラさせて、詩織センパイに別れを告げる。

「……それじゃあまた、ね」

「う、うん……」

俺から目線をはずして俯いた詩織センパイにまた自然と口角が上がっていた。

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