若くんと宿題
最近スマホにたくさん通知がくる。
特に顕著なのは忍足先輩からのメッセージの通知だろうか。
特に何がというわけでもないが、朝昼晩──細かく言えば起床や昼食、風呂などのタイミングでメッセージを送ってくださるのだ。
忍足先輩、そんなにスマホになって嬉しいんだろうか。元々小まめな性格なのかなとか考えて、私以外が存在しない自宅なので、それがこそばゆいけども嬉しいと思った。
私以外で音を発する存在にホッとするというか。
そういえば昨日の夜も木更津淳さんから電話がかかってきてびっくりした。
あのサバイバル合宿で増えた電話帳にニヤニヤしつつも、なかなか活用することはないなと思っていたので通話ボタンを押すのにものすごく勇気がいったわけである。

「木更津亮さんがまさか……」

そしてそのときに聞いたお話に木更津亮さんのことを非常に不憫に思った。だってまさかクラスの人たちに髪の長さだけで男性が好きで女装癖があるなんて思われているなんて。
その誤解を解くために亮さんの彼女役をやって欲しいと頼まれたのである。他校の女性徒の方があとあと絡むこともないだろうからと。
そんな淳さんのお兄さんを思う気持ちにも感動したので、彼女役というものを引き受けることにした。それで映画鑑賞に付き合わせていただくことになって、その映画館で彼女をお披露目して誤解を解いて終わりだということだ。
うん、頑張って華麗に彼女役という大役を演じきって見せる。

「……って、早くお昼ご飯食べなきゃ!」

ハムと目玉焼きをのせた食パンをむぐむぐと頬張って、一気に牛乳で流し込んだ。
牛乳はあまり飲みたくないタイプだが、リョーマくんが身長を抜かして見下ろす気満々らしいので、ちょっとした抵抗のため飲むようにし始めた。


幸村精市<こんにちは。俺もスマホに変えてみたんだ。メッセージの送り方ってこれであってるかい?


「ほあ!幸村さんもスマホに!確か昨日、切原くんと丸井さんと仁王さんも変えたんじゃなかったっけ。伝染するもんなのかな……」


パンダ詩織<こんにちは!そしてスマホデビューおめでとうございます!メッセージの送り方あってますよ!


それからお気に入りのパンダスタンプの中からグッドと描かれたものを送信した。
それからまた時計を見て「ふぐんぬっ!」と変な低い音が口から漏れる。時間がない。昼までなんて寝過ぎだ。
今日はこれから若くん家に行って宿題をする予定だったのだ。
一人で男の子のお家に遊びに行くなんて心臓がサンバを踊り出しそうなくらいだが、私には重要な目的がある。そう、若くんのプライベートな眼鏡姿を拝まなくてはならない!

昨晩延々と悩んで決めた洋服に着替えて、散らかったままの部屋からは目をそらし、髪の毛を首の近くで二つに分けて結んでみた。パンダ21号は双子ちゃんなので二つあるのだ。
それからプールの別れ際に流夏ちゃんがプレゼントだと渡してくれたリップグロスを取り出してみる。
カラーグロスらしく、これだけでもほんのりと色がつくみたいだ。
滝先輩にも一度メイクをされたときに塗られたことがあったものに近いし、これぐらいならいいかなと唇につけてみた。


幸村精市<よかった。パンダ可愛いね。俺もそのスタンプ購入しようかな。


また幸村さんから通知が入っていてメッセージは確認したけど、特に急ぎでもなさそうだったので返信は後にしようと思って玄関で靴を履く。
それから背負ったいつものパンダリュックの肩紐を握りしめて外に出た。

「ま、眩しい……今日もこれからまだ暑くなりそうだなぁ」

ぎらぎらと照り付ける太陽の日差しに肌が焼けてしまうと思いながら、エレベーターに乗って下に降りる。空調のついているエレベーターでよかった。榊おじさんに感謝である。



「あ!若くんっ」

アスファルトの照り返しにぐぬぬっと変な声で唸りながら歩いていたら、待ち合わせ場所で若くんが立っていた。
走って近づいて顔を見たら、いつもの不機嫌そうな表情の上に眼鏡があって。

「……ふぁぁあぁ……!若くんの眼鏡姿、すごく知的でかっこいいねっ!」

気付いたら大声でそう言ってしまっていた。

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