写真と真田副部長
俺は昨日の夕方に携帯電話をスマホに変えた。一年間、月のお小遣いを半分にするという母さんとの約束で。半分……はさすがにキツいけども、でもまぁゲーセンに行くのを月に半分に減らせばいいわけだ。なんとかなるはず。たぶん。

そして真新しいスマホのホーム画面の三番目にアイツの写真を背景にしてみた。
アイツ──夢野の写真を。
何回も横に二回左にスライドさせては、ニヤニヤする。んで、恥ずかしくなってまた二回右にスライドさせては落ち着いたりした。

「……赤也、人の話をちゃんと聞いているのか」

「うあ、あっ、はいっ!もちろんっす!!」

「……では俺が今お前に尋ねたことを言ってみろ」

午前中部活をして、そのあと一緒に昼飯を食べていた真田副部長がどうやら俺に何かを質問していたらしい。
ポテトを食べていた手を止め、一度コーラを口に入れる。その間、同じ席に座っている柳先輩と幸村先輩をチラ見してみたが、助け舟を出してはくれなさそうだった。その隣の席の丸井先輩とジャッカル先輩、仁王先輩、柳生先輩もわざとらしく目線をはずしている。

「……えーっと……」

「やはり聞いてなかったんだな。まったくたるんどる!!」

カッと目を見開いた真田副部長にビクッと体を強張らせたら、俺の隣の柳先輩が「弦一郎」と声をかけた。

「む?」

「すまない。きちんと答えよう。答えはイエスだ。お前を誘わず申し訳なかったが、確かに俺たちは夢野とプールに行った。だがたまたま会っただけだ。そうだろう?赤也」

「うえ?」

柳先輩の台詞に一瞬狼狽えた。確かあれは丸井先輩と柳先輩が俺からの情報を頼りにプールを特定できたので行ってみたことにしたはずだが。
でも柳先輩の顔が頷けと無言で言っているように見えたので、コクコクと首を上下に振った。

「そ、そうなんっす!たまたま、で!」

「だが、どうして俺をさ──」
「真田。いつも苦手だと言っていたじゃないか。女子が肌を露出させていてはけしからんって。だから俺たちも気を使ったんだよ?」
「──ならば、プールでなくとも……」
「真田。暑かったからだよ。わかるだろう?」

有無を言わさない満面の笑みを幸村部長に向けられては、真田副部長も言葉を飲み込む他なかったようだった。

俺も残りのハンバーガーを口に放り込みながら、またスマホを手にしたところで、幸村部長がにこにこと俺を斜め前から見ていることに気づいた。

「変えたんだ?」

目が合うと幸村部長は笑顔を崩さないまま俺に尋ねる。
何故か冷や汗が背中に浮かび、心なしか髪の毛もいつもよりうねりがひどくなったような気がした。

「ま、前からスマホにしてみたかったんで……」

目線を泳がせながら幸村部長に答えたら、隣では柳先輩がノートを開いてペンを走らせている。

「ふーん、そうなんだ。……俺も変えようかな」

「そ、そうしたらいいっすよ!確か丸井先輩と仁王先輩も今日部活終わったあとに変えにいくって言ってたっす!」
「あ、赤也っ」
「プリッ?!」

悪いとは思ったけど、さっきから俺の窮地を助けてくれない先輩らへの仕返しとばかりに名前を出して巻き込んでやった。

「へぇ、そうなんだ。俺、聞いてなかったや」

そう呟きながら二人を見た幸村部長の表情が俺から見れなくて良かったとホッとする。なんせむこう側の席の四人が青くなっていたのだ。柳生先輩も何回も噎せていたし、ジャッカル先輩もアイスコーヒーが入っていたらしい空のコップに入ったストローをずっと吸ってるふりをして、すかすかした音が聞こえてきていた。

夢野にメッセージを送るのは部活終わって帰ってからにしようとスマホを鞄のなかに突っ込んだら、真田副部長が俺のその手をつかもうとして前のめりになる。

「え?」

「写真を……メールで送ってもらってはダメか」

もしかして俺の三番目のホーム画面がばれてしまっていたのだろうか。
ぼそりと寂しそうに呟いた真田副部長に罪悪感を感じて、小さく頷いた。
……でも送るのは集合写真の方にする。
一度自慢するために夢野の写真を財前に送って失敗したと思ったからだ。

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