「や、柳沢先輩、ちょ、煩いです!」
「何々ー?!弟くん、夢野さんとプールに?!」
「ほらーっ!ノムタク先輩来ちゃったじゃないですか!」
裕太が大袈裟に嘆くと、ノムタクが唇を尖らせながら裕太の携帯電話を奪った。
それから画面をしばらく見つめて、柳沢に向けてニヤリと笑ったあと、眼鏡をくいっと上にあげる。
「ふっ、俺にはすべてお見通しだぜ」
「大丈夫だーね?ノムタク、頭いかれただーね?」
「失敬な!まったくこの愚民どもよ!氷帝の跡部に次ぐインサイトを貴様らに教えてやろう!」
ノムタクのやつ、調子のってるなって思ったところで、次にでた台詞を聞き逃さない。
「俺は見ただけでスリーサイズがわかるんだ!夢野は着やせするのかいまいちわからなかったが、この水着姿の写真で看破できたぜ!」
「なっ?!」
裕太が顔をあげて一気に真っ赤に染まった。
というか、裕太の携帯電話の画面は夢野の水着姿なのか。
僕も見せてもらおうと、ノムタクの手元を覗きこむ。
「……なんだ」
ちょっと期待してたのと違った。
髪を束ねてポニーテールにしてるのは、いつもと違って新しい魅力に感じたし可愛かったけれど。
黄色のワンピース型の水着は露出が少ない上に、ラッシュガードを羽織っているせいで色っぽいものではなかった。
いつも思っていたけど、彼女は首もとからの露出を嫌っている気がする。
亮から聞いたが、あの島でのサバイバルの時も水着になって泳ぐのを頑なに拒否していたらしいし。
「それで……スリーサイズは?」
僕が尋ねたらノムタクはふふんっと笑って上から順に数字を並べたのだった。
『……胸が予想外にあるんだな』
「僕も思った」
その日、亮に電話して夢野のスリーサイズを教えてあげた。
電話越しに聞く亮の声はどこか動揺しているようだ。
「……この間、連絡先手に入れたんだよね。まだ一回もメールとかしてないけど」
『……俺もだ』
「亮は忙しいだろうから、僕だけ連絡していい?」
『ふざけんなよ』
ふざけてないんだけどな、と一人電話越しに肩を竦める。
声があまりにもいらっとしているように聞こえたから、冗談だよと笑った。
「でも、映画に誘おうと思うんだけど。今、新撰組がモチーフの映画があっただろ。僕の趣味と亮の趣味を合体させた結果これしかないなって」
『まぁ……そうだな。……邪魔が入らないようにバレるなよ?』
「わかってる」
また連絡すると告げてから電話を切る。
僕が誘うのかーと呟きつつ、夢野のことを考えた。
明るくて可愛い雰囲気を持つのに、ヴァイオリンを弾き始めたら綺麗な雰囲気に包まれる不思議な子だ。
そんな夢野をもう少し知りたいと思ったし、回りが熱をあげるからそれに感化されているってのもある。
でも一番は何故か彼女に触れてみたかった。
何度か亮と二人で夢野に触れたことはある。でもそれだけじゃ足りなくて。
うまく言えないけど、満足できなかった。
だから──
「……あ、もしもし、夢野?僕、木更津淳なんだけど」
電話向こうの彼女はひどく驚いた声をあげてから『どうしたんですかー?』と、聞いてきた。
深呼吸をしてから、僕はぽつりぽつりと話始める。
夢野が断られないように、外堀から埋めて。
「だから、一緒に行って欲しいんだ」
答えは肯定しか用意していない。
電話向こうの彼女は困った顔で笑っているかもしれないなと思いながら、夢野の返答にぐっと拳を握ってガッツポーズをしたのだった。
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