きっかけは静電気
「は……?ううう嘘やろっ?!」
「……あいつら全員死にさらせ」

部活を続けていくには勉強も両立することが必須であると俺は考えとる。
せやから部員とは部活のあと、夏休みの宿題をやらせるために図書室に集まるんやけど、その集まりで謙也と財前がほぼ同時に鳴った携帯電話の画面を見て、同じタイミングでそう声に出した。

「二人とも、しーっ!やで。ってか、どないしたん?血相変えて」
「小春に手間と心配かけんなや」

小春とユウジにそう言われても、二人は落ち着く様子がなかった。謙也は「せやかてぇぇ」とそのまま小春に携帯電話を渡し、財前は「確実に殺せる呪いの本とかないんか」と禍禍しい空気の放たれる本棚へと視線を向け始めた。

「もう二人とも落ちつ──え……!け、謙也くん、これどういうことなん?!あんたの従兄弟、うちの詩織ちゃんに何さらしとんの!」

謙也の従兄弟言うたら、忍足侑士くんやんな。と思ったところで、小春がプルプル震え始めたんを見て、俺自身も落ち着かなくなる。せやかて夢野さんの名前出たら知らんぷりはできひんやろ。
銀とケン坊に金ちゃんの勉強を任せて、ちらっと小春が持っとる携帯電話の画面を覗き見した。
そしたら忍足くんと夢野さんが水着姿で仲良く並んでいた。いや腰に手を回そうとしている忍足くんとそれを拒否してるのかひきつった笑顔の夢野さんや。

「え、え?ちょお待って。これなんなん?」

「なんや女子だけでプールに遊びに行った詩織たちをストーカーして一緒に遊んだらしいっすわ」

財前が携帯電話を開き、切原くんから送られてきたらしい画像を見せてくる。
そこにはなんや氷帝と立海のメンバーに囲まれてる夢野さんを含めた女の子たちが写っていた。いやよぉ見たら不二くん兄弟もおる。
真田くんと跡部くんと樺地くんおらんやんって思ったら、その三人は仲間外れらしいですわと財前が続けた。それからもう一つの画像は夢野さんが一人で写っていて、美味しそうにかき氷を頬張っているところだった。

「髪アップにした詩織ちゃん、可愛えぇなぁ」

小春の台詞にうんうん頷きつつ、その画像にでかでかと赤也といういらんロゴみたいな文字が入ってることが気になる。

「なんやこれ写真有料で買ったらしいですわ。で自慢するために送ったけど保存されたら嫌らしくて、こんな嫌がらせ編集しとるんです。まぁ気にせず保存するけど」

「こっちのツーショットはそれより高かったはずやんな?!」

「たぶんそうでしょ。つまり切原のアホはその代金支払われへんからツーショットやなくて。それより安価なワンショットと無料の集合写真っちゅーことや思います」

財前と謙也のやりとりを聞きつつ、夢野さんで商売しとる彼女の友人の子は、関西でじゅうぶんやっていけそうやなとか感心した。
そしてそれが成り立ってまうくらい夢野さんの魅力にはまってる男が多いんかと唸ってしまう。

「……不思議な子やもんな」

ぽつりと呟いたんはケン坊やった。
勉強に飽きたらしい金ちゃんが白紙のノートを折り紙がわりにしはじめとるのをなんとかなだめながら、俺をちらりと見る。

「アホやろただの。まぁ不思議いえば不思議系やけどな、あの独り言は」

ユウジが鼻で笑ってから、国語辞典をペラペラ捲っていた。
そういえばあの遭難合宿の終わりぐらいから、ユウジは夢野さんに対しての言動が柔らかくなったような気がする。

今ここにいない千歳も夢野さんのことをなんや面白がり始めてたような節があった。

「……んー……」

「どないしたんや、白石ー。そないな難しい顔してー腹でも壊したんとちゃうかー」

金ちゃんが悪戯っ子のように笑ったのを横目で見ながら、はぁとため息をつく。

夢野さんとの出会いはあの静電気の勘違いやった。
でも静電気がなかったとしても、俺はヴァイオリンを弾くあの子の姿に見惚れてたんやと思う。
静電気を言い訳にして、人生初の一目惚れをなかったことにして。
せやけどやっぱり心奪われたんは、ヴァイオリンを弾いていた姿で。

「……あかん。財前、その夢野さんのワンショットもらえ──……ください」
「部長、ジュース奢ってくれます?」
「切原くんのロゴ入っとるのに?」
「いらんのやったらええんですけど」

自分、切原くんにただでもらったくせにえげつないなとか財前に視線を向ける。けど、負けてくれるつもりは絶対無さそうやからジュースを奢ったることにした。

「謙也もそれ送ってくれへん?」
「侑士ついてるけどええんか?」
「おん。従兄弟くんには悪いけど画像編集で存在消去さしてもらうで」
「あ、俺もそうするわ」

そう言えば、相変わらず俺と謙也は夢野さんの連絡先知らんままやねんな。とまたため息をついたら、ケン坊が「そういえば夢野さん、スマホに変えたんやってな」と笑った。

「……小石川、なんで知っとるん?」

「しもた……」

「あ。そうやった。小石川副部長は五月の合宿ん時から詩織の連絡先知っとるんやったわ」

「「は?」」

片手で気まずそうに自分の口を押さえたケン坊を見て、財前の台詞に謙也と二人で固まる。

「ち、違うんやで?!黙っとったんは悪かったけども、ほ、ほら、自分らもいい加減聞いとるもんやと思うやんか!」
「つかまだ聞いとらんかったんかい!おどれらアホやな。ほら」
「そやでぇ。この間、アタシらも聞いたのになぁ」
「……ワシも夢野はんの連絡先やったら知ってるぞ」
「ワイは携帯電話持っとらんから知らんでー!」

ユウジと小春も知っとるのもショックやったけど、一番衝撃やったんは銀が知っとることやった。
謙也と二人で顔を見合わせてから、そのまま机に突っ伏する。
金ちゃんが「ワイも知らんて!元気出しーや!」と俺の背中をバシバシ殴ってきたが、なかなか復活できひんかった。そして最終的に煩い言われて全員で図書室から追い出されてもうた。

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