「意味わからへんし、宍戸と鳳もサングラスやからなって、何二人とも眼鏡装着しとんねん。突然の裏切りか。え、いや、眼鏡萌えるなら普段の俺はっ?!」
一人でつっこみに忙しそうな忍足先輩を生暖かい目で見ながら、若くんに視線を向ける。学校ではコンタクトレンズらしい若くんの眼鏡姿に鼻息荒くなった。だがそこにいたのは眼鏡なんてしてない普段の若くんだった。
「なんで眼鏡は?!」
「は?プール入るんだから裸眼に決まってるだろ。……この距離だったら見えてるからな。変顔するな馬鹿夢野」
裸眼ということは目があまり見えてないのかなと思って柳沢さん風変顔したらバレた。さっき流夏ちゃんに降り下ろされたチョップと同じ勢いのチョップが私の額を襲ってくる。ひどい。
そもそもなんで皆さん集合しているんだろうか。氷帝の皆さんだけじゃなくて、まさか立海の皆さんまでもがいるとは夢にも思わなかった。
「まぁ立海のメンバーは私が呼び寄せたようなもんだけどね」
「そうだったんだ〜!三船さんもありがとうー!私好みの美形さんがたくさんで嬉しいわ〜というか幸村さんかっこいい〜!」
「あ、ありがとう……」
流夏ちゃんの台詞にタマちゃんが跡部様を見るような瞳で幸村さんを見ていた。幸村さんが少し勢いに負けているのかお礼をいいながら一歩ずつ後退していく。
確かにどちらも様付けしたくなるほどの美形である。でも幸村さんが好みだとすれば不二さんも好みなのではないだろうか。
「うん、俺も及川さんにはカッコいいって言ってもらったよ」
「ですよね!」
きっとここに佐伯さんや白石さんがいたら、タマちゃんはもっと狂喜乱舞するに違いない。そしてそんなタマちゃんに迫られてタジタジしている二人を見てみたいとも思った。
不二さんがたこ焼きを私の前に差し出してくれたので、とりあえず食べた。うん、さっきから餌付けされてる気がする。
「ねーねー、詩織ちゃん、俺、怒ってるんだけどー!何も言ってくれないってことは、俺のことどうでもEーってこと?」
ぎゅうっと椅子に座っている私の腰に腕を回して座り込んでいるジロー先輩が拗ねていて、確かにジロー先輩には悪いことをしたかもしれないと思ったのでふわふわの髪の毛を撫でてみた。
「ごめんなさい、ジロー先輩。ジロー先輩のことどうでもいいとか思ったことありません。ほら唐揚げあげるので許してください」
「あーん」
「あー……ん??」
声に出してあーんしたジロー先輩は一体何者なんだろうか。かわいい生物図鑑にでも登録されたいのだろうか。びっくりした。可愛かった。さっきちーちゃんやタマちゃんにたこ焼きをお口にいれさせてもらったが、その時はなんかみんなで分けっこみたいなノリだった。だから裕太くんにもあげようと思ったわけで。結局それは忍足先輩が横取りしたけども。こんな照れるイベントだったとは。
「夢野さん、俺もなでなでしてあーんして欲しいナリ」
「いや仁王さんに関してはわりとどうでもいいんですが」
というかジロー先輩は断ってしまったからで。仁王さんにそれをする理由がないじゃないか。なんで仁王さんは三角座りしてのの字書いてるんだ。
「とりあえず、皆さん座ってください!他の利用者の方々から変な目でずっと見られて心がすごく痛々しいんです!」
さっきから異様に視線を感じるのは私の独り言が理由じゃないはず。絶対この人たちのせいだと思われる。
「そうだな。とりあえず、腹を満たそう」
ずっと例のノートにペンを走らせていた柳さんがそう言ってそれぞれ追加で食べ物を注文しに行く。その時には何やらテンションの低かった丸井さんと切原くんが元気になっていた。何があったかは知らないが、二人を慰めていたジャッカルさんの心労が減るならば良かったと思う。
とりあえず、ジャッカルさんにはすっとアイスコーヒーを差し出しておいた。
「……ほんと、これじゃあ放って置けないよな……」
ぽつりと隣で裕太くんが珍しく独り言を口にしていたので「目立つもんね、皆さん」と相槌を打ったら、ジュースを運んできてくれたらしい鳳くんと宍戸先輩に両肩それぞれに手を置かれた。
「夢野さん……」
「お前はそろそろ気付いてくれ」
え、一体何が?
とりあえずスマホのカメラ機能をフル回転させているちーちゃんから順番に柳生さん、滝先輩と視線を向けていく。そのまま皆を見回したら、何故かみんながみんな微妙な顔で私を見てて、考えてもよくわからなかったし妙に落ち着かなかったので、自分のジュースを一気に飲み干した。
「流夏ちゃん!秘密の花園に参るでございます!」
「はいはい、トイレね」
「おうふ、はい、トイレですとも」
男の子ばかりだから遠回しに言ったのに意味なかった。しかも付いてきてくれないらしい。いいや。パンダ21号と一緒だもの。
左手の手首にはめてたヘアゴムについているパンダ21号に癒されながら、髪の毛結ぶの忘れていたやと今さら気づいたのだった。
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