道化師になるつもりはないよ
≪明後日、プールにて協力してくださいませんか?詩織と仲良く遊んでくれるだけでいいんです。あ、このメールのことは秘密です≫

そんなメールが三船さんから届いたときは、どういうことかなと数分考え込んだ。
三船さんが夢野さんをすごく大切な親友として接しているのは見ていてわかったし。
夢野さんの一定の距離に他の人を受け入れないようにさせているのも遠くからでもわかった。一種の束縛心からきていることも理解している。

それなのに、僕へのメールで仲良く遊んでくれるだけでとかかれているのだ。一瞬何かの罠かな?って思ってしまうのは仕方がないよね。
でもその心配をよそに、この計画が立海のメンバーたちへの牽制を兼ねているということに気付いたとき、僕はすぐに返事を出した。
裕太も誘うことを了承してもらったので、二倍僕は楽しめると思う。



「ひゃあぁっ!」

ウォータースライダーは一人用から四人まとめて乗れるものまであって、なかなか充実したものだった。
人気がやはりあるのか多少混んではいたが、何回か楽しめた。
そして裕太が及川さんと篠山さんにもう一度乗ろうと誘われて連れていかれた時、ちょうど三船さんも近くにいなかったので、夢野さんの手を握ってスライダーとは反対の場所にある流れるプールにまでつれていく。
大きめの浮き輪を夢野さんにはめて、僕はその浮き輪に腕を置いて水の流れに身を任せてみる。

「ふふ、本当に気持ちいいね」

「そうですねっ。でも流夏ちゃんたちと離れて良かったのかなぁ……裕太くんも驚くんじゃ」

「……裕太との方がよかったかい?」

キョロキョロとスライダーの方を気にしている夢野さんに、少し拗ねたような言い方でそう尋ねてみた。

「へ?!いえいえ?!むしろありがとうございます?!まさか不二さんとこのような経験ができるとは思いもしませんでぇ」

「なんで最後江戸っ子口調になったの」

あはは!と声だして笑った。
夢野さんはやはり面白い子だと思う。この男と二人っきりに慣れてないところも変わってないなともう一度笑った。
あんなに男ばっかりの島にいたのに。
ほんと、面白い。

何度か水の中で脚があたっていた。
そのたびに夢野さんは色々豆知識みたいなのを口にしては黙りこんだりと忙しない。

「夢野さん、上見て」

青空を仰ぐように告げて、浮き輪の紐を持ちながら、仰向けに体を浮かせた。
ずっと立海と氷帝の数人を除くメンバーが後をついてきているのを知っている。

「わぁ、なんだか……世界に自分だけみたいな」

「うん。この景色と感覚、好きなんだ」

水音や騒がしい周囲の声は相変わらず聞こえているはずなのに、この瞬間だけは誰もいないように感じる。
それが好きだ。

「ふふっ、なんかもう気持ちいいです」

そう笑ってくれた夢野さんは気に入ってくれたようだった。

「……恋人同士に見えるかな?」

ぽつりと、上体を起こし、夢野さんの浮き輪に胸から上を預けるようにしてから、空を見上げている彼女に影を作った。

驚いたような彼女の顔がまた面白くて、この様子を見て君たちはどう思うのかなって、彼らにたいして思った台詞は飲み込んだけど。
どんな心境かなんて想像したら、楽しくて仕方がない。

……裕太には悪いけど、やはり手を抜くのはまた怒られるだろうし。それから三船さんにも悪いなとは思ったけど。

チュッ、とリップ音を鳴らして、夢野さんの少し濡れた額に唇を落としたのだった。

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