「あ、あぁ、こんにちは……じゃなくて!え、兄貴、知らなかったんだよな?!」
「ん?夢野さんがここにいたこと?もちろん知らなかったよ」
驚いている詩織と自分の弟に柔和な笑みを携えて平気で嘘をついた不二周助さんに私は心の中で拍手を送った。
さすがである。桃城と海堂を呼ばずに先日連絡先を交換させていただいた彼に連絡を取って良かった。彼ならば私に協力してくれると感じたのだ。
あと二、三人連絡先を交換した人がいるが今は伏せておく。
「あわわわ、こちらの王子様みたいな方は、私知ってるわ〜!」
瞳をキラキラさせ始めた及川さんはペタペタと不二さんの体をさわり始めた。
その行動は予想外だったけども、すぐに篠山さんが及川さんを止める。
ちなみに篠山さんとは既に連絡先交換はしていた。彼女とはとても気が合いそうだ。
「お友達と遊びに来ていたんだね。僕らはお邪魔だろうから……」
「ええ?!お邪魔だなんて!!」
「こら、タマ。詩織や三船さんはどう思う?」
遠慮がちに手を振ろうとした不二さんに及川さんが非常に残念そうな声を出して、篠山さんが私たちに顔を向けてきた。
すごい。及川さんのお陰ですごく自然な流れができるじゃないか。
「私はどっちでもいいわ。詩織はどうしたい?」
「え、え?私、私は女の子同士で遊ぶのもいいし。あ、でもお二人がよかったら……一緒に」
「本当?それは楽しそうだね。ふふっ」
「え!あ、いいのか……?いや、俺はその方が……嬉しい……けど」
最終的に詩織は不二兄弟の意思に任せようとしたのだろう。
そこを見逃すはずもない。
不二さんは当初の計画通り、私たちに疑われずに合流することに成功したようだ。
弟の不二裕太の方は何も知らずに普通に頬を少し赤らめ小さく呟いていたが、そのすべてが私には予想通りである。
プール施設の端っこの一部で誰かがざわついていた。
もちろん、私には正体がバレている。
むしろバレてないと思っていただろうが、入り口の広場のところですでにバレバレだった。
まず私が誘き寄せた立海メンバー。ざわつきの感じから、真田先輩は来てないようだ。まぁあの人を連れてきてたら、さすがに詩織も気付いてしまうだろう。
そしてこっちは確信はなかったが、氷帝のメンバーも来ているらしい。そしてこちらは跡部さんと樺地という子がいないのも想定内。
「とりあえずスライダー乗らない?」
ニヤニヤしてしまう口元を隠しながら、私は皆に提案をしてみたのだった。
……とりあえず私は幸村先輩を代表に立海の人たちだけには詩織を可愛がらせてたまるもんかと力強く思っている。
4/140