というか、独り言を呟いてしまう度に遠慮を知らぬスピードで後頭部を叩かれる。授業中でも躊躇いなくだ。
「……何か恨みでもあるんだろうか」
「…………」
睨まれた。
叩かれはしなかったけど、ギロリと睨まれた。え、どうしちゃったの。私知らないうちに日吉くんに何かしたのか。否したのかもしれないけど。
その日の昼休みは忍足先輩に見つかって笑顔で追いかけられたので逃げた。篠山さんたちはニコニコと笑っているだけで、とても悲しい気持ちになったのは忘れない。
放課後は屋上でヴァイオリンを弾いた。相変わらず、ジロー先輩は楽しそうだった。
そして次の日の水曜日である。
日吉くんが、私の存在を無視するようになっていた。
一体私が何をした。
昨日散々人の後頭部を叩いていたくせに、今日は視線すら合わせてくれない。本当に彼に何をしたんだろうか、私は。
どちらかと言えば、昨日の態度の方がいい。話し掛けたら反応してくれたんだから。
「……私の頭を叩いてよ。……寂しいじゃないか」
うっかりぽつりとそんな言葉が口から漏れる。
「…………お前、変な性癖でも持っているのか。気持ち悪いヤツだな」
心底気持ち悪そうな目で見られました。
でもちょっぴり嬉しかったので、もしかしたら私はそっちよりなのかもしれない。流夏ちゃんも言っていたし。
「……何か反応しろ」
「えへへへ」
「…………キモい」
日吉くんはもの凄く重そうな溜め息を吐き出すと、ぺしりっと軽く私の頭を叩いた。
その後部活に行く日吉くんと別れて、私は校門へ向かう。
実は今日、大学病院に行かなくてはいけない。
半年も寝たきりだったために、定期的に検査をすることになっているのだ。運動面や日常生活に何か支障はないかとか聞かれたりする。
「……あ、ねぇねぇ、そこのキミ〜。そうそう、キミだよ、キミ!すっごく可愛いねっ」
「…………わ、私ですかっ?!」
校門付近で声をかけられ、驚愕した。
まさか可愛いと言ってくれたのか、この人!
オレンジ色に近い髪色のお兄さんは、見知らぬ制服姿だ。
優しそうな笑顔でニコニコしているお兄さんは、さらに距離を縮めてくる。
「ウンウン、俺ってラッキー!道に迷ってみんなとはぐれたおかげで、キミみたいな可愛い子と出会えるなんて……」
「あ、迷子の方なんですか?」
「いやぁ、仲間とはコレでさっき連絡ついたところなんだけどね〜!」
笑顔で携帯電話を取り出すお兄さん。ん?では何故私に声をかけたんだろうか?
「ねぇねぇ、今暇かい?だったら、俺とデートしない?」
「え」
「あ、俺、千石清純、せいじゅんって書いてきよすみだよ!キヨって呼んでくれていいからね!はい、キミは?」
清純どころか、なれていらっしゃる……っ!
「う、あ……夢野詩織、です」
勢いに圧され、つい素直に答えてしまう。
「で、暇かな?」
「あ……ご、ごめんなさい、私、今日は病院に……っ」
「そうなんだ?……うーん、だったら、メルアドだけでも交換しない?ね?」
「……は、はい」
「ラッキー!」
いつの間にか、私はメルアドを交換することになっていた。
でも笑顔がすごくいい人過ぎて断りにくいというのもある。
な、なんだろう……この独特なペース。
独り言を口にする暇もないなんて、初めての出来事だ。
「じゃまたね!詩織ちゃん!気をつけてね、病院」
「は、い……」
ぶんぶんと、大層上機嫌で学園内へと消えていった千石さんを呆然と見送る。
それから、携帯電話に登録された千石清純という名前を長い間眺めた。
「……もしやこれは軟派……?」
急に赤面。
あまりにも恥ずかしくなったので、登録された千石さんの名前をキヨ子さんに変更しておいた。
……ど、どうせメールなんてこないよ!うん
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