「な、なんでここにっ」
「ふむ。八十パーセントの確率で、俺たちと同じ行動だろうな」
更衣室でジロくんを始め、氷帝のメンバー(跡部と樺地以外)を見つけて焦った。
ロッカーの並び通路が違ったのが幸いか。
ジロくんたちは俺らに気付かずに更衣室をあとにする。
赤也も同じく焦っていたのか、心臓の辺りを手で押さえていた。
何かメモをしている柳をちらりと視界に入れつつ、ため息をついているジャッカルを見る。
「なんだよぃ。んな顔して」
「なんで俺までついてくる羽目になったんだと思ってな……」
「仕方ねぇだろい。つかついてきたくなかったのかよ」
「そうじゃないだろ。俺は正々堂々と夢野の前に行って挨拶したいだけだ」
こんなこそこそして見つかった方が恥ずかしいぜ。と大真面目な顔をしたジャッカルに確かにと思いつつ、でも呼ばれてもないのに調べてプール付いてきたとかカッコ悪くね?とも思う。
「しかし、よく夢野さんがこちらのプールに遊びに来ることを知っていましたね」
「プリっ」
比呂士くんと仁王の疑問はここに到着する前から何度か聞かされていたが説明してなかったなと思い出して、赤也を指差す。
「赤也、あの髪短い子がクラスメイトなんだって。だろい?」
「は、はい、そうっす!それで、三船がっ、あ、あの髪短い暴力女のことっすけど、あいつが昨日の部活終りにたまたま途中まで帰り道一緒だったんっすよ!そしたら、夏休み入ってまであんたの顔見るとか憂鬱だわーとか言い出して、言い返そうとしたら、でも明日は詩織とプールだから、あんたの顔見なくてすむーって」
「つまり三船流夏がわざわざ口に出してきた情報から、ここに俺たちは来たのか。いや……来させられた確率が今ので高まったな」
柳が少し苦笑していたが、よくわからねぇ。それってどういうことだ?
三船ってやつは、わざと赤也に言って、それで赤也が俺らを連れてくるってわかってたってことか?
「……まぁ、真田を置いてきて正解だったね。けしからん煩くってすぐに見つかりそうだし」
水着姿にパーカーをいつもみたいに肩にかけて小さく笑った幸村くんの台詞に現実に戻される。
「それであいつはどこだよぃ?」
「ブンちゃん、夢野さんならあそこじゃ」
飾りとして置いてある観葉植物のすき間から、こっそり覗き見すれば夢野はすぐに見つかった。
波の出るプールの浅瀬のところで、女子四人でビーチボールで遊んでた。
普通に楽しそうで異様に羨ましくなる。
「いや、つかよ」
「なんで長袖の黒のラッシュガードやねん」
「まるで子連れの主婦みたいな格好だねー」
「マジマジ一言で表すと、可愛くなEー」
俺の発言に続いた声にん?と首をかしげる。
横を向いたら、氷帝の忍足と滝とジロくんだった。思わず何かが口から飛び出しそうになった。
仁王も苦笑して肩を竦めているし、柳も幸村くんも無表情のままため息をつく。
「クソクソっ、立海のやつらがこんなとこで何してんだよ!」
「夢野さんのストーカーにでもなったんですか?」
向日の台詞は置いといて鳳が人の良さそうな笑顔で言った台詞は聞き捨てならねぇ。
「そ、そっちだって似たようなもんだろ?!」
いいぞ、赤也。もっと言ってやれ。
「ちゃうで。俺らは詩織ちゃんの保護者的な目線やから。やましいことなんてなんも考えてあらへんから」
「やめろよ、忍足。言えば言うほど激ダサだぜ……」
どや顔で言いはなった忍足に宍戸が両手で顔を覆っていた。
何故かジャッカルがそんな宍戸の肩を叩いてうんうんと相づちを打つ。
「本当にこの人たち馬鹿ばっかりだな……」
遠巻きにそんな様子を見ていた日吉が呆れたような顔でそう言ってていらっとした。
「ですがやはりこそこそと隠れているのも限界なのでは……」
「そうですよね。この人数じゃ見つかるのも時間の問題でしょうし」
比呂士くんの台詞に鳳が頷けば、みんながみんなメンバーを見回す。
「わかった。俺が偶然を装って夢野さんに会ってくるよ」
幸村くんがそんなことを言い出して、それ自分だけ向こうに合流しようとしてるんじゃね?!と気付いたときだった。
「やぁ夢野さんたち。こんなところで会うなんて偶然だね」
そんな声が夢野のいたところから聞こえてきたのは。
俺らでも、氷帝のやつらでもなくて。
「……む、ここで不二兄弟が出てくるとは」
予想外だ、と続けた柳の声を聞きながら、いよいよこの尾行が面白くなくなって嫌な気分になってきたなとぼんやり思った。
……ただ
ただ俺は、あいつと──夢野とプールで一緒に遊べたら楽しいだろうなって思ってただけだったのに。
「……俺の言った通りだっただろ」
ぽんっと肩に手を置いたジャッカルにはすべてバレてるようで、恥ずかしくてたまらなかったが「……ん」とだけ小さく返しといた。
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