頼られたいんだ!
「……すみません菊丸さん、お水ってこんなに重いんでしたっけ。ヴァイオリンって軽かったんですね。これでは私はただの役立たず、お前何しに来たんだって視線が……し、死線を越える……っ!」

「わー、夢野ちゃん、意味不明だし、なんか最後すっごく恐いんだけど?!っていうか、これ1ボトル、20リットル入るらしいから!」

単純計算で20キログラム。

「そうか。小さいお子さんを抱っこするお母さんの腕力が鍛えられる理由がわかりますねっうおりゃあ──へっ?」

詩織のバカのボトルを持つのを手伝ったら、間抜けな顔で俺の顔をマジマジと観察してきやがった。

「……あれ?なんかお手伝いの小人さんがやってきてくださったと思ったら、岳人先輩と瓜二つ」
「クソクソ詩織のバカ!小さい人ってなんだよ!!手伝ってやろうとしている俺をバカにしてんのか!」
「はっ!まさかのご本人様!!」

平に平にすみませんと謝る詩織がウゼェ。

「いきなり何〜?向日呼んでないにゃいけど?」

それから後ろでブーブーいっている菊丸も心底ウザい。

「クソクソ菊丸!ちょっとお兄ちゃんポジションだからっていい気になるなよ!」

「え?」

きょとんとする菊丸にさらにイラッとした。

クソクソ!なんでこの間抜けが兄ポジで、俺が弟ポジなんだよ!本当に納得いかねぇぇえっ!!

「……もしかして、向日……夕食の家族妄想のやつ、ずっと引き摺ってる?」

「え?!岳人先輩、弟枠そんなにショックだったんですか?!」

かぁっと頭に血が昇るのがわかる。
く、クソクソ!
なんだよ、これ!俺、めちゃくちゃかっこ悪いじゃん!!

本当は何も言わずに詩織を手伝って、岳人先輩頼れるって思われたかった。
そ、そりゃあ背は他のやつらより少し、ほんのっ少し低いけどよ!!
詩織には、ちゃんと年上だって思われたくて。

ニヤニヤ笑ってる菊丸にパンチしてから、無言でボトルを運んだ。
半分持ち手を持ってる詩織はあわあわ言いながらついてきている。

クソクソ!やっぱこのバカに弟言われるのはホント胸くそ悪い。

「ほ、ほら!ここでいいんだろ!」

「おあ、ありがとうございます」

「ふん!」

頭を下げた詩織の前で鼻息荒く腕を組んだら、後から来た菊丸にまたニヤニヤ笑われた。

く、くっそー!菊丸、覚えてろ!!

「岳人先輩、岳人先輩。弟枠とかふざけた事言ってごめんなさい。岳人先輩、かっこよくて素敵ですよ。だからさっきの訂正して婿枠で──」

心臓がドキリと高鳴る。
え、それって誰の。いや、それは詩織のっ

「──間男さんの」

「侑士のかよっっっ!!」

ふざけんな!と詩織の頭をぺちんっと叩いたら、へらっとしたバカみたいな笑顔で笑われて、もうなんかその顔見てると許しちまいそうになって。

あぁもうどうせこいつ俺で遊んでるだけだって思ったら一生勝てそうにねぇって想った。

とりあえず、菊丸には負けるつもりはねぇし!
キッと菊丸を睨んでからもう一度詩織の頭を叩いといた。

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