あの頑固な大石が彼女の言葉を素直に聞いて無理をするのをやめた。
大石は先生たちの事を気にしていて、今日は手塚と口論になったりもしてた。
でも、さっきは彼女のおかげでだいぶ落ち着いていたようだ。
うんうん、俺だって仲間が険悪なのは嫌だもんね〜。だからすごく助かったにゃー。
「……本当に、夢野ちゃんって不思議な子だにゃ〜!」
「唐突にどうしたんですか?!菊丸さんだってきっと不思議部門にエントリーされてると思います!その可愛さとかで!」
「にゃはは!意味わかんない!」
「私の台詞ですが?!」
かっと目を見開いた夢野ちゃんはちょっと怖かった。
「……その顔、可愛い顔が台無しだからやめた方がいいよ〜」
「えっと、あれ?照れていいのか泣くべきか……わからない」
「あはは!照れていいよん!夢野ちゃん、可愛いもん!」
「ふぐぅっ!!」
にかっと笑って頭を優しく撫でてあげたら、両手で顔面を隠して変な奇声をあげてた。
耳まで赤くなってるのがわかって、ますます可愛いなぁって思う。
「じゃ、そろそろ水もたまったし」
湧水が垂れているところにおいていたボトルがもういっぱいになっていた。
いつの間に?!と叫んでいる夢野ちゃんは放置して、ボトルに蓋をする。
「気づいたら二つとも満タンに……!」
「ほいほいっと!」
「えっ?!一つぐらい貸してください!私、お手伝いですから!」
満タンになった二つのボトルを持ち上げたら、夢野ちゃんは慌てて大声でそう言った。
でもこのボトル、けっこう重いと思うし。
これを女の子に持たせるようなことはしたくない。
だって、なんかカッコ悪いじゃん。
「夢野ちゃんがそばにいてくれるだけでお手伝いだよん」
「そんなバカな!」
……う、うーん。
もしかしたら、夢野ちゃんって大石よりも頑固なのかもしれない。
しょうがない、と思って、俺は片方だけ夢野ちゃんに渡してみる。
気合いを入れて持ち上げようとした夢野ちゃんだったけど「ふんぬっ!」と力を入れたところで、僅かばかり持ち上がったそれを無言のまま地面に下ろしていた。
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