不動峰の席からすごすごと移動しようとしている夢野を見ていたら、永四郎がぼそりとそう言った。
黙ったまま心の中で頷く。
「変ついでにわんらも聞いてみるさー」
「げ。ふらー相手にする気だばぁ?!」
裕次郎が片手を振って夢野を呼んだ。
凜はすごく嫌そうな顔をしていたが、実のところはそこまで嫌がってないのだろう。
本当に嫌がっていたらこの場から姿を消すはずだ。
「え?!まさかの比嘉の皆さんまで家族妄想していいと?!」
「……まぁ私はしてほしいわけじゃないですがね」
「……わかってます、木手さんママンですもんね!!」
「ちょっと貴女、人の話はきちんと聞きなさいよ?」
永四郎が睨んでも無駄だった。
何を安心したのかわからないが、夢野はどうも永四郎を始めのころほど怖がっていない。
「甲斐さんと平古場さんはやっぱりお兄さんですかね。あ、田仁志さんもお兄さんかも」
「なんさー、普通さー」
裕次郎がつまんなさそうだったが、凜は満足そうだった。まぁ慧くんは聞いてもいなかったが。
「あ、不知火さんもお兄さんですね。新垣くんは……沖縄の人ずるい。お兄ちゃんにしか見えない……っ!くっ、畜生!」
「……落ち込むなさー」
新垣が夢野の頭を撫でると、周囲がざわっとした。
どうも他校はこの夢野に執着している節がある。
「あ、新垣くん、なんか、いい人だね!」
「いやなんか……飼ってるウサギに似てたから」
「ウサギ!?」
それは喜んでいいのかわかんないよと答ながらふらふら移動しようとする夢野の肩に手を置いた。
「…………」
いや別に家族妄想なんてどうでもよかった。
でも、一人だけ抜かされるのは気分悪いさー。
「……っ、知念さんは、知念さんは……」
「…………」
「……ファッションショーとかする有名なデザイナーのおば様的なっ!!」
ダッシュでいい逃げした彼女は勇気があるのかないのかわからなかった。
「……な、ふらーさー」
「…………」
凜の台詞に頷くしかなかったさー。
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