「……え、もう帰りたい……」
「た、頼む、夢野っ」
観月の言葉に逃げようとした夢野だったが、裕太の台詞に足を止めて顔を赤らめる。
その反応があまりにも女の子女の子した反応で、ちょっと驚いた。
「……ゆ、裕太くんは、えっと、その、うん。従兄のイメージが強い、です」
「そ、そう、か」
そして裕太も顔を真っ赤にし始めて、二人とももごもご俯くもんだから、今までで一番動揺が広がっていくのがわかった。
「ひ、ひよC〜!なんか、詩織ちゃんが変だC〜!!」
「…………っ」
「な、なんや。思わぬ伏兵やわ……。つか何があったんや」
氷帝席では芥川が呆然としている日吉を揺すっているし、忍足も信じられへんと呟いている。
……まあ僕もなんだけど。
裕太が彼女を好きなんだろうな、というのは薄々感じていた。
だから裕太が赤くなるのはわかるけど、夢野の反応がわからない。
「……それで、とりあえず赤澤はアニキでいいんだよね?」
だから確認するために近づいてそう言った。
後ろで赤澤が「はは、こんな俺がアニキでいいのか」と笑っている。
「……は、はい。き、木更津さんもお兄ちゃんかなぁと……」
「……そう?」
間近でみて夢野の頬の赤みが薄くなっていっているのに、裕太と同じではないかと確信する。
何かに照れていたのは確かだろうけど。
「……んふっ、割り込まないでください」
「……あ、観月さんは継母って感じです!」
「……は?」
観月には悪いけど、ちょっと吹き出してしまった。
「し、シンデレラ的な!はっ!そうだ!シンデレラは裕太くんだよ!」
「ちょ、ま──」
「それからだーねな柳沢さんが叔母さんで結果魔女!野村さんと金田くんが観月さんの連れ子でお姉さんと妹!」
照れから逃れるためか、夢野の舌がペラペラとまわり、勢いで話が進んでいく。「また馬鹿言い出しただーね」と呆れている柳沢を無視し、彼女の勢いは止まらなかった。
「……この展開になると、あれなんですよね。アニキはお父様的な!再婚後に亡くなっちゃうけどもっ!そして、木更津淳さんは、ここは王子に!!」
もはや家族設定どこいったのって感じだったけど、王子役を当てられたので少し愉快だった。
クスクス、だって少なくとも彼女の中で僕がそのイメージに近いってことだろ?
「……そういえば、夢野さんは?」
意地悪な役かとため息をついていた金田がふっと顔をあげて夢野を見る。
確かに裕太のシンデレラより、彼女のシンデレラ相手の方が嬉しいんだけど。
「え?私は……カボチャの馬車に変身するカボチャですが!!」
「「人でも動物でもねぇのかよ!」」
あと、喋らない物体なんかより、ネズミの方があってるよ。チューチューうるさいし。って言いそうになったけど、気を悪くしそうだから言葉を飲み込んだ。
……可愛い小動物って、愛でるものだよね。
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