青学の乾とノートに文字を走らせていた柳が夢野に話しかけた。
「弦一郎が父親だと言っていただろう」
「そりゃあもう真田さん以外に誰がいますか?!」
「む、むぅ」
夢野が力説すると、真田が唸っていた。
少し困ったような顔をして、頬の辺りがほんのりと赤いのは照れているのだろうか。
……父親言われてるだけだぞ。
老けてる言われてるんだぞ、真田。
「じゃあ俺はなんなんだよぃ。向日と同じように弟とか言わないだろぃ?」
「まぁ、そうですね。……丸井さんはお兄ちゃんかな。丸いお兄ちゃん」
「クソクソ!詩織のバカ!なんで俺が弟で丸井が兄ポジションなんだよ!納得いかねぇー!」
「それよりも、お前。今含みのある発音だったんだけど?聞き流さねぇからな?!」
「わー!ジャッカルお兄ちゃん助けてくだされ!」
「俺かよ!」
綺麗に食べ終わったらしい夕食の皿に箸を置いてから、夢野が俺の背中に隠れる。
ブン太と向日に睨まれて思わず苦笑した。
「そ、そうだ。夢野。赤也は……」
「切原くん?切原くんは弟──」
「なんでだよ!!アンタよりしっかりしてるし!!」
赤也が泣きそうな顔で叫ぶ。
まぁ……確かに好きな同級生に年下扱いは、男として辛いよな。ブン太が兄貴扱い(遊ばれてる気もするが)なのに対して自分が弟扱いはやはり嫌だろう。
「夢野さん、あ、あの、僭越ながら私は……」
「お、俺もついでに」
「え?柳生さんはしっかりされてるから、なんか真田さんの弟位置のおじさんですかね?仁王さんはお兄さん……?」
「そ、そうですか。……おじさんですか……」
「お兄ちゃん頑張るぜよ。なんでも買ってあげるナリ」
落ち込んでいるような柳生が哀れだったのと、嬉しそうにニヤニヤし始めた仁王がキモかった。
お前、折角苦手意識なくなったとこなのに、そんな発言してると危ないぞ。
「……夢野さん、その、俺は……」
そんなやり取りを黙って見つめていた幸村が口を開く。
その瞬間に俺らの席は静かになった。
いや、何故か氷帝を始め、他校も静かだ。
「……おね──ごほんごほんっ。姫っ!」
「え?」
「姫様!」
「ごめん、夢野さん、ちょっとわからない……」
とりあえず幸村は吹き出してる他校に向けて冷気を放っていたが、夢野が姫姫叫んでいるせいで威力が少ない。
そしてノートにペンを走らせていた柳がふむっと顔をあげる。
「……つまりこの流れで行くと、俺が母親位置だな」
「え?柳さん、お祖父ちゃんですけど」
「な、んだと?!弦一郎よりも上にっ?!」
かっと目を開いた柳は本気でショックだったらしい。
……っていうか、夢野は絶対俺らで遊んでるだろ。
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