家族妄想in氷帝
「じゃあな。しっかり食べろよ」

何故かルドルフの赤澤に頭をくしゃくしゃと撫でられた夢野は嬉しそうに「はいっ!アニキっ」と大声で返事していた。
それに対して驚いてガン見してしまったのは、俺だけじゃなかったようだ。
ものすごい勢いでノートに何か書いている柳と乾が怖い。
そして後ろで「なんでやねんっ」とぼそりと呟いて岳人の頭を叩いていた忍足の無表情も怖い。

「……お前なんでいきなり、赤澤をアニキ呼びなんだよ」

「大丈夫です。宍戸先輩も私の家族妄想の中ではお兄ちゃんです」

「相変わらず話がわけわかんねぇなお前は」

「えへへ」

「誉めてねぇよ」

額をこつんっと小突いてやった。
また嬉しそうにニヤニヤ笑う夢野に若干引く。

「詩織ちゃん、その家族妄想ってなんやの?」

「俺も気になるC〜!」

忍足とジローが食いつけば、岳人も跳ねては同意する。
夕食の席なのに、落ちつきがねぇのは毎度の事か。

「いや皆さんを家族にするならと考えただけです。全校合わせるとダントツでお父さんが真田さんで、お母さんが跡部様です」

「「げほぉっ」」

想像して気持ち悪かったのか真田と跡部が似合わないぐらい噎せていた。
さすがに今のはちょっと面白かったぜ。

「……氷帝だけで家族妄想なら?」
「えー?すると、お父さんが跡部様になるんですよね。ママんは滝先ぱほぉ」
「へぇ〜」

むにゅうっと夢野の頬が左右から滝によって挟まれて潰された。
それを眺めながら滝は「わー、変な顔〜」と笑っている。

「宍戸さんがお兄ちゃんなら……」

「凰くんは弟かな!樺地くんも弟!」

「……ウス」

樺地はぺこりと一礼していたが、長太郎は若干へこんでいるようだった。

「クソクソ詩織!俺は兄ちゃんだよな?!」

「あはは、もちろん弟枠で」

「むー、俺は〜?!」

「……ジロー先輩はパンダ枠でいいですか?」

悔しそうに地団駄を踏んでいる岳人とパンダ枠と言われて、じゃあ毎日ずっと一緒だねぇと笑っているジローの後ろで、忍足が大袈裟に咳払いした。

「詩織ちゃん、俺は──」
「間男ですかね」
「……家族ちゃうやん」

しかもそれって滝のってことだろ。って思ったら案の定、滝が夢野の頬をつねっていた。

「……いたひ、痛い、滝ママん、ごめんなさい!わーん、跡部パパン助けてー」

「……誰がパパンだ」

「許してほしかったら、日吉がどの位置か教えてくれるかい?」

「滝さんっ?!」

茶を吹き出した若を無視しながら、ニコニコと滝は夢野を見つめる。

「う、うーん。……お兄ちゃんでも弟って感じでもないしなぁ……?あ、双子?」

「へぇ〜。やるねぇ〜。双子だって、日吉」

「こ、この馬鹿に双子だと思われてるなんて不愉快です」

若が耳まで真っ赤になっているのを俺は見逃さなかった。

「……一番近い感じで嬉しいくせに〜」
「だから迷惑です」
「一番近いのはパンダ枠の俺だC〜!」
「……弟、かぁ」
「……いやそれよりも俺、間男やねんけど」
「クソクソ詩織のバカ!!」
「間男よりマシやって、なぁ?」

……まぁ、俺の兄位置は悪くないかもしれない。

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