「ありがとう!有りがたくいただくな!」
「お、おっす!」
どこの舎弟だ。
というつっこみは心のなかに留めて。
どこか目をキラキラさせている夢野の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
それから一口カレーを口に運んでから「うまい!」と言えば、夢野は嬉しそうに目を細目ながら「光栄っす、アニキっ!」と叫ぶ。
変なやつだというのは、初めてあった頃から感じていたことだったが、さすがに関わりが少なかったからかここまでとは思っていなかった。
まぁ、俺もあまり彼女には興味がなかったので、他のメンバーが話しているのを右から左に流していたわけだが。
「……あぁ、そういえばものすごく礼が遅くなってしまったが……」
俺はポケットから携帯電話を取りだし、そこにつけているポクポン人形とやらを彼女の前に見せる。
「これの礼をきちんとしてなかった。ありがとうな」
「……あ、赤澤アニキ、つけてくださっていたのですか!」
「裕太たちもつけていたしな。御守りなんだろう?」
「は、はい!……あ、でもけっきょく、こんな遭難が…」
少し肩をすくめ、しゅんっとした夢野の肩をぽんっと叩いた。
「人間、命があってこそだ。
この御守りがあったからこそ、俺たちはこうして無事なんだろう。むしろ誇らないでどうする?」
「……っ」
かっと目を見開いた夢野はぷるぷると小刻みに震えだした。
「……あ、ありがとうございますっ!そ、そういっていただけて、私、私っ!」
「泣くな。女に泣かれては対応に困るからな」
「はいっ!全部体内に戻しますっっ気合いで!」
気合いでどうにかなるものなのか、それは。
そんなことを思いつつ、ずびっと鼻をすする夢野があまりにも必死だったから、苦笑しながらぽんぽんっと背中を撫でた。
それからカレーすべて平らげて「うまかった。ありがとう」と頭を下げる。
「あ、でも、もう夕食ですけど、お腹、大丈夫ですか?」
「ははっ、大丈夫だ。カレーは別腹だ」
笑顔で答えたら「さ、さすがアニキ!」と異様に尊敬の眼差しを送られたが、そこはつっこみでいいんだぞ?と思ったのは内緒だ。
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