波打ち際のシンデレラ
跡部様たちとの優雅なティータイムが終って、皆さんはそれぞれ練習を始められた。

やはり、お手製なテニスコートが出来たもんね。
そりゃテニスがしたいよね。
その為に合宿始めたようなものだもん。

一人、うんうんと頷きながら、ぼんやりと榊おじさんや先生方のことを考える。
きっと無事だ。
跡部様を信じる。
だから、無事なのだ。

「……夢野さん」

「ほ?」

考え事をしていたから、まさか私の背後に人が立っているとは思わなかった。
間抜けな音を口から盛らしながら振り向いたら、さっきティータイムをご一緒した佐伯さんだった。

「ほぉ?!」

思わず予期せぬ人物にびっくりしてまた変な声が出た。

「しー……!」

そんな私に苦笑しながら、佐伯さんは口元に人指し指を当て、ものすごく綺麗なウィンクをする。
雑誌モデル顔負けの見事なウィンク過ぎて、思わずこの人ジャ○ーズに入れる!と心のなかで叫んだ。口に出そうになったので、ばっと口を手で押さえた。そりゃもう必死に。

「ふふ、今から六角中は海に潜ろうと思うんだけど、夢野さんも一緒に来ないかい?」

「え、あ、はいっ」

そしてウィンクの次にきた、爽やかな満面の笑みに思わず首を縦に振ってしまう。

「じゃあ行こうか」

「うほおぉおっ?!のぉおぉう」

また騙された!と思ったのは、すっと私を立たせてくださったあとだ。
片手で私の右手を握り、もう片方の手が私の頭を撫でた瞬間である。
思わず出た声はまるでゴリラのうなり声みたいになった。

そしてそれがさらに便秘に苦しんだ人みたいになったのは、その後続けられた佐伯さんの台詞のせいである。

「あ、そうそう。午前中に葵たちが水着の入ったダンボール箱を発見してね。跡部が言うには、先にこの合宿所に送られていたものじゃないかってことなんだけど。何故か1着、女子のも入ってたんだ。俺の見立じゃ夢野さんサイズ」

「ぬぅ……ぅ?!」

がっちりとホールドされた右手が自由だったら、私は全速力で逃げたのに。
残念ながら佐伯さんはそれを許してくれなかったのだった。

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