「……ちっ」
思わず目の前のやり取りを見て、小さく舌打ちしてしまっていた。
まず何より彼女の──夢野詩織さんの警戒心の高さのせいだ。
あんなにも人が好意を向けてあげたというのに、全然効いていない。どころか、むしろより一層警戒が強まった気さえする。
……いや、確かにヴァイオリニストとして尊敬はしているし、指の心配は心からの気持ちだった。
そこは正直に僕の中で人間としてまっとうな感覚、つまり素直な気持ちだった。
反応から、それは受け入れられた。
はずだ。
だけど、普通僕のような賢くて容姿もそこそこな男からあそこまでされたら、もっとドキドキしていいだろうに。
むしろ、するのが当たり前じゃないですか?!
イライラっと募る気持ちに紅茶を味わうことなく一気飲みする。
「……夢野さんが嫌がってるなら、やめてあげてくれないかな?」
「……大丈夫です。嫌がってはいません」
「私の気持ちは?!」
幸村くんと日吉くんの間に挟まれて、目を見開いて叫んだ夢野さんは、相変わらず日吉君に変な顔にされていた。
どうやら、僕にときめかない理由の一つに彼が障害になっているような気がする。
……んふっ、ですが僕のシナリオは完璧なんですよ。
幸村君を始め、強豪校のメンバーに気に入られている夢野さん。
彼女を僕のものにできれば、テニスでは負けてしまった僕も彼らに勝つことになる。
そしてきっとそれは動揺をもたらし、僕との試合に彼らはまともな精神じゃいられないだろう。
「……んふふっ」
思わず笑みが溢れるのだった。
「……観月さんがまた悪そうな顔してる」
「あかん、見たらあかんで」
「……ふむ、もはや考えていることがあからさまにわかるな。面白い」
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