まず剣太郎が驚いたような嬉しそうな声をあげて、その声に反応した皆がそれぞれ、遅れてやってきたサエさんに視線を向ける。
「サエ、さん……」
なんで、手を繋いでるんだろう。
そんな疑問を口にしようとしたら首藤さんが「お前何してんの?」と先にツッコんでいた。
「そうですよ!僕の夢野さんから離れてくださいー!」
「あはは、別に剣太郎のじゃないでしょ」
手を繋いだまま、サエさんはピシッともう片方で剣太郎の額にでこぴんした。
「あ、あぁあ、あの、佐伯さん、もう拙者は勘弁していただきたいでございますればっ」
「あはは、夢野さんは何言ってるの。面白いなぁ」
ぐるぐると目を回している夢野さんは、なんだか必死でその顔を見ていたらつい、繋がっているままの手と手を引き離していた。
「え」
「?!」
「…………繋がった綱カッター……」
我ながら苦しい、と思う。
「だ、ダビデ……」
バネさん、お願いだから。
皆と同じように呆然としてないで、俺にツッコミいれて。
「つ、つまんねぇんだよ!ダビデェェ」
そんな願いが届いたのか、バネさんが遠慮がちなチョップを降り下ろしてきた。
痛いようで痛くなかった。
「ふ、ふふ、その綱カッターに助かったー!」
ニヤリと笑ってそう言ってくれた夢野さんに思わず笑ってしまう。
あぁ、俺、役にたてたかな、とか。
ぼんやりと思った。
「ま、これ以上、苦手意識持たれて白石君みたいになっても嫌だし。……うん。で、夢野さん、一緒に海に入るでしょ?」
「それは本当に真面目にご遠慮します」
「えー」
「どうしてですか?!僕は貴女の水着姿が見たかったです!」
サエさんだけじゃなくて、今度は剣太郎も非常に残念そうな顔をしていた。
夢野さんはすごく困ったような顔をして「でも、水着だけは……」と口を閉じる。
「あ、」
「クスクス、二人とも無理言わない」
俺が何か言おうと口を開いたのと、亮さんがそう言ったのはほぼ同時だった。
「見学してもらって、夢野さんの気が向いたらでいいんじゃないかな」
「あぁ、そっか。……そうだね」
「うぅ、葵剣太郎、ここは大人しく引き下がりますっ」
クスッと笑った亮さんは、ほっとしているらしい夢野さんにそのまま続ける。
「一応、下に水着を着たらどうかな?嫌なら上着を着とけばいいし」
「え……」
……その時思ったのは、亮さんはちょっと策士なのかもしれない、と言うことだった。
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