揺れる水面、漂う……カレー?
水着を脱いでいつものかっこうに戻ってから、管理小屋の前で待っててくれたらしい十次くんと話していた。
十次くんには改めて女子であることについての注意を受けた。
十次くんにはお姉さんがいるのは知っていたけど、何故かそのお姉さんの愚痴まで混ざっていた。
なんというか、もしかしたら十次くんの方が女子力高いのかもしれない。

「……それは嫌だ」

うっかり漏れていたらしい。
はぁっと深くため息をつくと、十次くんは「……あ」と小さく叫ぶ。

「どうしたの?」

「いや、そういえば、もうそろそろ休憩終わりにして練習に戻らないと」

確かテニスコート使う順番のはずだ。と続ける。
せっかくのテニスコート使用時間なら急いだ方がいいよと背中を押したら「あぁ……」と小さく頷いてからまたため息をついていた。

一体どうしたんだろう?と思って顔を覗き込んだら、目のあった十次くんが思いっきりぺちんっと私の顔を叩いた。……痛い。

「ご、ごめっ、ち、ちが!あ、いや、その!だって詩織がいきなり!……い、いたかったよな、ごめん」

「ううん、驚かせたんだね。ごめん」

斜め後ろから顔を覗かせたのが幽霊みたいで、とても気持ち悪かったのかもしれない。
やっぱり私に必要なものは女子力かもしれないなと遠い目をしていたら、十次くんはもう一度肩を落としてため息をつく。

それから「ほんと、女子なんだから!忘れるなよ!」と念を押してからテニスコートのある広場まで走っていった。

その背中を見送りながら私は決意する。
うん、女子力頑張って鍛えるよ!

そんなわけで、女子力といえばやはり料理かなと思い、夕食の御手伝いでもしようかなとか思って厨房があるとこまで移動する。

すると、夕食はまだ少し先なのに何故か香ばしい匂いが漂ってくる。

「……あれ?えっと」

「あぁ、夢野だったか。俺は赤澤だ。一度だけしかきちんと挨拶してなかったから、忘れてたかもしれないが」

「そ、そんなことないですよ!ルドルフの部長さんですよね!」

ルドルフといえば、観月さんの悪そうな「んふっ」笑いが記憶に強いけども、ちゃんと裕太くんやだーねさんのいる学校だってわかってる。

「……ははっ、柳沢な!」

裕太くんのことを思い出して顔が熱くなるなぁとか思っていたら、赤澤さんは太陽みたいに明るい爽やかな笑顔を返してくれていた。

各テニス部部長さんの中でも一番会話したことなかった方だったが、なんだかすごく話しやすいかもしれない。

「……あの、それで赤澤さんはここで何して?」

「あぁ、実は小腹が空いてな。無性にカレーが食べたくなった」

「……え、でも、たしかカレーってついこの間……」

南さんたちと作ったはずだ。

「ははっ、そうなんだけどな。あの時のカレーが非常に旨かったから、もう一度食べたいと思ったんだ!だが自分で作るとやはり味が変わるな」

残念だと笑う赤澤さんに、味付け任せてくださいと申し出てみた。
あの時私も作ったメンバーの一人だったのでと言えば、赤澤さんはとても嬉しそうに白い歯を見せて笑ってくれる。
日焼けした小麦色の肌にやけにその笑顔が似合っていて、アニキっ!とつい叫びそうになった。
いやでも、もう赤澤さんのことは心の中だけでもアニキ呼びさせてもらおうかな。マジ似合う。

「ははっ、俺は別に構わないが」

にかっと効果音すら聞こえる満面の笑み。

「あ、あぁ赤澤アニキ……っ!」

「おう!」

やばい。アニキ、眩しいっす!

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