笑うだろうか
忙しない動きで、幸村のところから日吉の前に走っていった夢野の姿を目で追っていた。

「また……」

息切れしたらしく、肩を大きく上下に揺らしている姿に思わず苦笑する。
そして日吉に頭を叩かれている姿は、もはや見慣れた。

深司を筆頭に、うちの部員たちもかなり彼女を気にしているようだし、面白がっている節がある。
確かに、彼女はとてもおかしい。

あの和太鼓のコンサートで出会った時も、青学と対峙したときに再会したときも、彼女は不思議な人間だった。


「桔平」

「……っ、千歳?!」

驚いた。
背後から俺に話しかけてきたのは、あの千歳だったのだ。

船に乗った時から、見かけて気になっていた。
声をかけようとしてはかけられなかった。
俺からなんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。
その千歳が、俺に声をかけてきてくれたのだ。

「……右目は」

「そるより、彼女ばみとったんか。彼女は面白かけんなぁ」

「千歳……っ」

「あー、そぎゃんこつぁ、気にせんでよか。……テニスで、わかるたい」

話を誤魔化そうとする千歳に上体を前にしたら、強めの語気でそう言われた。

千歳がテニスを続けている。
確かにそれが答えなのかもしれない。

心の奥で渦巻く罪悪感と、そしてテニスへの想いに瞼を閉じる。

「……あぁ」

「で。桔平も夢野さんが気になると?」

「……何で話をそっちに戻す」

「んー、別に気にせんでよかよ」

含みのある笑みを浮かべた千歳に眉根を寄せる。


「…………うすとろかばい」

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