「……本当に出来ちゃうなんて」
「驚くのはいいが、口は閉じた方がいい」
私にそう言ってくれたらしい橘さんは苦笑いだった。
女子力低いとか思われたんだろうか。いや間抜けな顔過ぎたってことだろうか。……辛い。
「うむ!これでテニスの練習試合も出来るな!」
「そうだね、真田」
「む、幸村。顔色が悪いが大丈夫か?」
「あぁ。少し日に当たりすぎたかな……。さすがにこの日差しはきつかったかもしれない」
橘さんと会話をしていたら、後ろで真田さんと幸村さんのそんなやり取りが聞こえた。
柳さんに支えられて木陰に移動する幸村さんを見てから、橘さんに会釈して炊事場に走る。
それからコップに飲み水を入れて幸村さんの元に走った。
「ゆ、幸村さ、んっ、み、水で……げほっ」
「ちょ、まずは夢野さんが飲んで!」
全力ダッシュしたせいか息切れしてしまい、逆に持ってきた水を半分ほど頂いてしまった。なんてこった。
柳さんには無表情で長いメモを書かれる。だが私は知っている。咳き込んだ時に「ぶっ!」と吹き出していたことを!
「……気を使ったつもりだったが爆笑した方が良かったか」
「柳さんが爆笑とか一種のホラーなんでやめてください」
「ツンデレのつもりか」
「私がいつデレましたか」
そんなしょうもない言葉の応酬をしていたら、幸村さんが私の持っていたコップを取り上げて、残りの水を飲み干した。
柳さんと戦っていたせいで幸村さんの体調を気遣えなかった。反省する。
「……ふふ、ご馳走様」
すみません、と声を発そうとしたのに、その幸村さんがあまりにも神々しくて声にならなかった。
柳さんが小さく溜め息をついて、また何かメモしていたけれど、その意味も理解できない。
ただ何故か昨夜、幸村さんが私を管理小屋まで送ってくださってからの出来事を一気に思い出して身動きもできなかった。
どくどくと心臓が音を大きくたてていく。
「夢野!」
意識を取り戻したのは、若くんが大声で私の名前を呼んだ時だ。
ひとまず幸村さんと柳さんに会釈してからその場を去る。
若くんの前に立った時にはまた息切れしていて、体力の無さにさらに泣きそうになった。
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