優雅な午後を
「詩織ちゃん、自分ちょっとおいで」

いつも通り日吉と話していた詩織ちゃんを観察してから声をかける。
俺に声をかけられたからか、詩織ちゃんは若干警戒しとるし、日吉はなんや不機嫌そうやった。

……あかん。
日吉、もうほぼ隠そうとかしてないわ。
威嚇するかのような視線に、むしろ口角が上がってまう。
そういえば、滝が益々からかいがいがあるとか言うてたけど、これのことやわ。

間違いなく日吉は、自分の気持ちをはっきりと固めて自覚しとる。

「……罪作りやなぁ」

びくびくしながら近づいてきた小動物──詩織ちゃんの頭をぽんぽんと軽く撫でれば、日吉の眼光が鋭くなった。

「な、なんなんですか、また何か罠ですか?!」

「詩織ちゃん、俺、自分を罠に嵌めた記憶なんかないで。どないしたんや。夢にまで俺のこと出してくれたんか」

「……出てきたら訴えてます」

で、本当の用件はなんですか?と首をかしげる詩織ちゃんにちょっとばっかし、きゅんとした。
せやかて、ずるいやろ。
この子はいつもこうや。
俺がちゃんと話あるときは、わかってくれるねん。
警戒しつつも、俺のことをよぉ見てくれとる。

……やからやろうか。
自分に正直になった日吉を羨ましい思うんは。

「……忍足先輩?」

「あぁ、あんな。跡部が呼んどる。なんや、樺地や滝たちと一緒に紅茶飲まへんかって」

「はぁ?!」
「跡部様まさかの優雅なティータイム?!」

日吉が信じられないといった表情で叫ぶのと同時に詩織ちゃんは最早さすが跡部様っとでも言いたげな表情やった。
跡部、どんだけ信頼勝ち取っとるねん。
日吉やなくてもイラッとしたわ。

「他にも観月や不二、佐伯、幸村、柳生も来るらしいけど」

「おほぅ、ティータイム似合う面子ですね!どうせならリョーマくんや白石さんとかも呼んだらいいじゃないですか」

「そこに自分誘われてるんやで?」

「すみません、無理です」

「跡部の後ろ隠れとったらえぇやん」

「いきます」

即答した詩織ちゃんがなんや腹立たしくて、むにっとほっぺを摘まむ。
たぶん同じようにイラッとしたのか、日吉も反対側の頬を摘まんでいた。


「何故だ。何故、そこに俺の名前を入れない……っ!」
「すみません、柳さんはティータイムはティータイムでも緑茶が似合います」
「それは知っている」

そしていきなり現れた柳に軽くため息をついた。
最近柳もかなり詩織ちゃんの周りにおる気がする。そして言動がおかしい。



「……つっても」

一番おかしいんは俺自身か。
考えても考えても答えがはっきりしない。
詩織ちゃんに対するアレは、ペット的な感覚なんか、それとも……って。

……俺の気持ちは不安定なままや。

せやけど、きっと。

もう後戻りできひんくらい、嵌まっとるんやろうなって。

そう思たんや。

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