ずっと継続している緊張からか変な汗ばかりかくし、もうダメだ!ってなって温泉まで歩いたのである。マジしんどかった。お風呂にいくのになんでこんな歩くの、転んで死ぬわ。とブツブツ言いながら懐中電灯の光を頼りに、深夜の温泉まで頑張ったわけだ。
案の定、誰もいなくて私はウキウキと温泉に浸かっていたわけだが、何故か神尾くんがやってきてしまい軽くテンパった。山道をバスタオル巻いて走った。いっぱい肌を葉っぱや木の枝で切ってしまって、妙にヒリヒリする。でも転ばなかっただけ奇跡だ。
……たぶん、バスタオル姿で全力疾走は、誰にも見られていないと思う。思いたい。きっと見られていないって信じてる。
「ねぇ、詩織センパイ。なんで真夜中にバスタオル姿で走ってたわけ──むぐっ?!」
朝食を作るお手伝いをしようと、包丁握ったら観月さんに注意されたが、大丈夫ですよと笑ってごまかしといた。
そしてベーコンのかたまりをスライスしようとした時である。
今日の朝食作りメンバーであるリョーマくんが先ほどの台詞を口に出してきたのは。
慌てて彼の口を手で覆い隠したが、あまりにも反射的に動いたせいで、片手に包丁を握りしめたままだった。
そのため私とリョーマくんを見た、朝食作りメンバーの樹さんと首藤さんの顔が真っ青だ。なんかものすごい表情である。
「ち、違うんですよ!えっとこれは──」
「助けて下さいっす。詩織センパイに殺される」
「──ふぉお、ナチュラルに嘘吐くこの整った顔した少年が憎いっ」
「……どうも」
「誉めてないよ!」
リョーマくんから手を離して、そんなやり取りをしていたら、手塚さんが私の包丁を握っている手首を掴まれた。
どうやらブンブンと包丁を振り回していたらしい。通りで樹さんの鼻息がものすごい音を立てて、首藤さんが泡を吹きそうな表情になっているわけである。
「……すまない」
「え」
手塚さんに謝られて私はポカンとした。
だって謝るべきは、朝食作りを中断させてしまっている私とリョーマくんである。
「……ちょっと、なんで俺もなの」
唇を尖らせているリョーマくんは華麗にスルーする。
「いえ、すみません、手塚さんはもう作業終わられたのに」
「……いや、作業ではなくて……その、越前がお前に言ったことだが、……俺が目撃したことを越前に話したせいだ」
「……えっと」
頭の中が真っ白になる。
「……ただ、その、……バスタオル姿で山道を駆け下りるのは、危ない。今度からは歩いた方がいいだろう。ほら、ここも傷になっている」
手首や半袖の服から露出している肌の小さな傷を指差した手塚さんに、私は思わず「つっこむべきはそこじゃないです」とつっこんでしまった。
キョトンとした(と言っても無表情だが)顔で固まった手塚さんはきっとわかってくれなかったと思う。
「……だからさ、なんで詩織センパイ、バスタオル姿だったわけ」
「それは私が入浴していた温泉に乱入してきた神尾くんがわ──」
「言うなぁあぁあっ」
神尾くんは地獄耳だった。
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