透明な空気感
──私の唯一の親友である詩織の魅力は一言では言い表せない。

一見、大人しそうなちょっと幼顔の可愛らしい少女。まぁ、私の贔屓目があるかもしれないけど、パーツは整っていると思う。

でも集団に紛れていたら、その他大勢。決してスポットライトが当たるような子ではない。

なんていったらいいのかな……纏う雰囲気が、透明というか……空気みたいに溶け込む存在なのだ。

でも間違っても影が薄いわけじゃない。確かに印象にはあまり残らないかもしれないけど、ふっと気付くのだ。

あぁ、日だまりみたいに温かいのは、今彼女が居たからかって。

証拠に、立海でも詩織と同じクラスだったりした子たちは悪い印象を持っていない。だけど詩織がどんな子かと聞かれれば、みんな黙るだろうけど。

いつもヴァイオリン弾いてたよね。とか、よく笑ってた子だよねぐらいの感想だろう。

……それは詩織が私以外に懐いていなかったことが原因だ。

否、私が詩織を独り占めしていたから。

彼女はある事件をきっかけに人と親しく関わるのをどこかで恐れている。本当は人懐っこい子なのに。

そして、私はそれを知りながら詩織を極力他人と関わらせなかった。

……たぶん、私は大好きな親友である詩織を他の人に取られたくなかったんだろう。

だから、彼女が引っ越し私から離れることを聞いたとき、漠然とした不安感に駆られ、落ち込んだ。でも神様を恨みはしていない。

なぜなら、神様は私の一度目の願いを聞いてくれたから。

それはあの飛行機事故の直後……


──どうか、詩織を私に返して!


神様は詩織を見捨てなかった。だから感謝している。



「……本当に今回はありがとうでした」

「いや……」

「ははっ、ホント気にすんなって!じゃあ俺らはこれで!」

「待ちなさい」

詩織が深々と頭を下げたのをみて、帰ろうとした海堂と桃城という男子二人を私は呼び止める。

私の視線の先には、二人がずっと背負っていたテニスバックだ。

「ここで知り合ったのも何かの縁でしょう?メルアド交換といきましょう」

問答無用で携帯電話を取り出す。

「る、流夏ちゃん、積極的だ……っ!」

何か勘違いしているのか、詩織は顔を赤らめながら「で、では恐れながら私も便乗を……」と携帯電話を取り出していた。

「あぁ、いいぜー」

「…………ちっ」

桃城は笑顔で了承、海堂は慣れていないのか顔を赤らめながら舌打ちしつつも携帯電話を取り出してくれる。ツンデレなのか。


「……これでオッケーと。じゃあまた会えたらいいな!」

爽やか桃城の笑顔に微笑んで返した。

……ふっ。
青春学園テニス部、そしてあの二人が着ていたのはレギュラージャージ。

私は目立つ方だ。
だから適当に人付き合いを行っている。そう、そこそこ顔が広い方なのである。

だからすぐにあの二人は利用できると感じたのだ。

なんせ、詩織の話からよく飛び出すテニスというキーワード。

詩織が私のいない場所で何かに巻き込まれていくかもしれない。

その時に使える駒は多い方がいい。


「……流夏ちゃん?何やら悪代官みたいな顔してるよ?」

「あはー、失礼なお口はこれ?ねぇこれなの?」

「ひあひ、いたひです、すみまへ、おほう、伸びる……っ私の顔面が横長に……!」

本当に詩織の頬はよく伸びた。なにこれ、気持ちいい。

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