真田たちとのランニングを終え小屋に戻ってきて扉を開けようとしたら、俺を押し退けるようにして幸村くんが扉を開けた。
顔が赤かったのと様子のおかしさに眉間にしわを寄せる。
中に入ると、俺らより先に入っていた幸村くんは、頭から布団を被って、一番奥側の二段ベッドの下にうずくまっていた。
「幸村?」
「弦一郎、精市は気分が悪くなったんだろう。今は安静にさせるんだ」
真田が心配そうに駆け寄ろうとしたら、柳が止めた。
さすが参謀、と思ったところで、俺らとランニングしてたくせに、別行動とってた幸村くんのことがよくわかるんだなと違和感を感じる。いや、ほんのちょびっとなんだけどな。
「……プリっ」
小さく無表情でそう言った仁王は、がりがりと頭をかくと比呂士くんと一緒に温泉に行った。……なんか悟った顔してたよな、あれ。くっそ、気になるだろぃ。
それから俺らもいくぜぃ!とジャッカルと赤也の背中を叩いた。
赤也は今日一日、鼻血だしたりボーっとしてたりまた鼻血だしたりして、こいつもかなり様子が可笑しいが理由はわかっている。
赤也は夢野の妄想で忙しいのだ。
「……うお、赤也。冷静に考えたら、やっぱお前キモいぞ。真田くんの鉄拳制裁食らう前に現実に戻ってこいよ」
「ブン太、お前はもう少し後輩に優しくしてやれ」
「無理だな」
「だろうな」
速攻でジャッカルの足を蹴ってから、そのままため息ついてる赤也の頭を叩く。
「つかな、どう考えても夢野の裸なんかつまんねぇって」
だってそうだろぃ。
色っぽさの欠片もねぇじゃん。いや、なんか俺の中のアイツはパンダみたいなふわふわした感じだから、想像できねぇんだよなー。
そりゃあ可愛いって不覚にも何回かは思ったことあるけどよ。
「だぁっ?!なんか俺にまで移ってきた!赤也、頼むから戻ってこいよ!バカ!!」
適当に服脱いで、賑わっている温泉の湯に足を浸ける。
ちらりと奥を見たら、青学と山吹、六角のやつらがいた。つか六角、潜水とかしてやがる。泳ぐなバカ。
「そ、そんなこと言っても……、だって」
後からついてきた、ジャッカルと赤也が湯に腰までつけた頃だろうか。
赤也は温泉の表面を見ながら、けっこうな音量で叫んだ。
「だって、ここ、昼間夢野が入ってたんスよ?!この温泉の中に夢野が裸で入ってたと思うと……なんか、なんかエロくないっスか?!」
真顔だった。
「……っ、にゃ?!にゃー?!手塚、大石が死んだー!!」
「……サエさん。潜水してた葵や首藤たちが水死体みたいに浮いてる」
「潜水したい、全水死体……ぷっ」
「ダビデぇ!」
菊丸が泣き叫ぶのと、六角の木更津が佐伯に報告したのは同時だった。
「ダダダーン!!亜久津先輩!事件です!千石先輩のみならず、部長や室町先輩まで鼻血を……!」
「……けっ。放っておけ。バカばっかりだからよ」
……山吹のほとんどが、急に明後日の方向向いた理由も理解する。
「……いや、赤也。お前本当に重症だったんだな……」
まぁ赤也だけじゃねぇけど。
「……だって、俺、昼間夢野の生音聞いたんッスよ?!」
赤也が予想外にぶっ飛んだ発言をまた吐き出したのと、温泉に真田が到着したのは同時だった。
「……け、けしからん!!」
全身真っ赤になって大声を張り上げた真田が、さっきの赤也の台詞だけで何を想像したのか詳しく知りたいところだったが、とばっちりを食いたくない俺はジャッカルと隅っこに移動したのだった。赤也はすごい勢いで殴られてた。死ぬなよ、赤也。生きろ。
そして隅っこで真っ赤になって黙り込んでいる比呂士くんとニヤニヤしている仁王を発見する。
「ブンちゃん、夢野さんは見かけによらずけっこう胸大きいなり」
「お、お黙りなさい!仁王くん!!」
「ピヨ」
「…………」
とりあえず、今日……寝れるだろうか。
眠れなかったら赤也のバカのせいだ。
あと、夢野のバカのせいでもある。
マジ、明日覚悟しろよぃ……!
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