その手に触れるのは
「……ヴァイオリン、僕の為に、これからも弾いてくれますね?」
「は、はは、はひっ!」

そのやり取りを目撃したとき、体中の血が沸騰したかのような感覚やった。
握りあっている手、詩織の肌は妙に柔らかかったから、あぁやって撫でた時の感触も簡単に想像できる。
そして何より一番腹が立ったのは、ルドルフとかいう学校の観月っちゅー人が、あの台詞を詩織の後ろに立っている俺に気付きながら──いや俺に向かって言ったことやった。

なんでや。
それになんで、詩織のアホは即答で頷いとんねん。ボケっ!

睨んで立ち尽くしている俺を嘲笑うかのように、観月さんはその場を去っていく。
あぁ、あかん。あの笑い方ムカつくわ。俺に喧嘩ふっかけてきてどないすんねん。

……いや、どないしたいんは俺や。
いつまでつっ立ってんねんやろうか。

「……っ、おいアホ詩織間抜け」

「っ?!気配消して近付いてきた光くんに暴言吐かれた?!」

「忍者やからな」

「大変だ、光くんの頭が暑さで溶けた」

「えぇ度胸や」

詩織の両手の手首を右手で掴んで、左手で脇腹を擽る。

「ぎゃー!くすぐったぁっひぃー!!……っあははは、ごめ、すみま、せんでした財前様っ光様っ」

無言でくすぐり続けたら詩織はついに観念したんか、大粒の涙を浮かべながらそう叫んだ。

なに泣いとんねん。
……これやから、S属性の人間に興味持たれたり狙われたりすんねん阿呆。

「……ほんま、うっざいわ、その顔」

「顔っ?!」

うざがられても修正不可能だ!と喚く詩織に深いため息をつく。

……今日はやたらイライラすることだらけやった。
謙也くんは相変わらずヘタレやし、白石部長は聖書どこいったんやっちゅーくらいらしくない態度とりよるし。
午後に一緒の班やった切原は急に鼻血出したから一応心配してやったのに、なんや柳さんによると「温泉での妄想がまだ続いていたとは……計算外だ」らしい。
つまりあれやろ。あのムッツリはずーっと頭ん中で、詩織の入浴シーン考えて悶々としとったっちゅーことや。
で、夕食ん時もあかんかった。
だいたい、前からずっと思っとったんやけども、あの芥川さんっちゅー人はなんであんな平気でベタベタ詩織に抱きつくねん。いや、金ちゃんもやけど。ただうちのゴンタクレは脳みそ低学年の小学生やからえぇねん。芥川さんは違うやろ。あの人はなんや絶対どこかでわかっとる。
あと向日さんと丸井さんやけど、詩織に暴言吐くのは俺だけでえぇねん。

そしてさっきのあれである。
あの観月っちゅー人は正直ノーマークやった。
詩織が壁作ってんのは明らかやったから。それに本人も詩織に好意があるわけやないと思う。……あの人は面白がっとるだけのタイプやろ。


「……光くん?」

掴んでいたままの手首が赤くなってた。
無意識に力を込めていたらしい。
戸惑いと、無表情の俺に対してうっすらと恐怖の色を浮かべているのがわかった。

その色に、ざわりと心が躍る。
それは安心している中に、俺が男だという意識を持っている反応。

「……めんどくさいから、もう俺のことしか考えられへんようにしたろか」

考えんの
悩むんも
イライラすんのも
ほんま面倒やねん。

笑いすぎて浮かんでいた涙の粒が、つぅっと頬を伝う。
戸惑いに歪む青白い顔に妙に映えて、俺だけしか見てない詩織に悦んどる自分がおった。

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