変態の頂き
午前中、俺はずっと落ち込んでいた。


「……なぁ蔵リン、いい加減しゃんとしてくれへん?」

小春がうなだれている俺に深いため息をつく。
その後ろでユウジがなんか俺を罵倒しているようやったけど、なんやようわからへんかった。

なんでこんなに落ち込んでいるかというと、今朝、夢野さんが跡部くんと同じ香水をつけてたことが原因や。
俺でもなんでそない落ちこんでんのかわからへんのやけど、彼女の柔らかい優しい香りが好きやったからってだけじゃない気はしとる。
たぶん、いや間違いなく、俺は夢野さんが他の男の香りに包まれとるんが嫌やった。
まるで夢野さんが他の男のもんになったみたいで、悔しいのか悲しいのか跡部くんが羨ましいのかわからんけど、ほんまにショックやってん。
……情けないけど、嫉妬なんやろうな。


「……はぁ」

あかん。
小春の言う通り、いい加減しゃんとしたいんやで?せやけど、ショックすぎてうまく頭も身体も動かへん。


「……部長、えぇ加減にせぇや。うざいっすわマジで」

昼食もあんま進まへんとボーっとしとったら、財前がめっさ睨んできとった。

「お、おい、財前……」

ケン坊が止めようとしているが、財前はつかつかつかと俺の隣に立つと、テーブルをだんっと叩く。

「詩織、ちょおこっち来たって」

「え?!光くん、どうしたの?白石さん、具合でも悪いの?」

「ちゃうねん。このアホ部長に近づいたってくれ」

な、なんでわざわざ夢野さんを呼ぶんや!
昼食中っつーこともあって、他校のみんなも俺に視線を注いできていた。

「……な、なんだろうか。ま、まだ食事中なんだけどなぁ……」

ぶつぶつと独り言を言いながら夢野さんは俺のそばに近づいて来てくれる。

「っ?!夢野さん!」
「ひぃ?!」

カッと目を見開いて俺が席から立ったら、夢野さんだけでなく、ほとんどのやつらが驚いていたが今はそんなこと構わへん。
俺は自分でも引くくらい目を輝かせて言った。

「これや、この匂いが夢野さんやで……!んー、エクスタシー!」

「い、いやぁあぁあっ!!」

そして、顔面蒼白になって全力疾走で俺から逃げていった夢野さんに、俺は再び酷く落ち込むことになったのだった。




「……ひ、光ぅー。白石、元気になったんやないんかー?」
「あれは治らん病気やわ」
「馬鹿ばい」
「…………なんやろ、俺の記憶では、アイツ、モテてたよな?」
「まぁへたれの謙也クンよりはモテてたと思うよ、蔵リンは」
「小春、謙也も泣かせとるぞ……」


仲間の非情な声を聞きながら、めっさカブリエルに会いたくてたまらなくなった。
……誰か、癒してくれ頼むわ

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