意識しないようになんて
「お、おん、温泉発見であります!おぉ鳳た、た、隊長っ!!」

「わかった、わかったから落ち着いて、夢野さん!あと、いつの間に俺が隊長になったの?!」

本日、島の探索班に入っていた俺を手伝うと付いて来た夢野さんの挙動を抑えようと必死に声を張り上げるが、温泉を発見して興奮している夢野さんには俺の声があまり届かないみたいだった。
いや、朝のやり取りから、夢野さんが汗やら匂いを気にしていたのは知っているし、俺も風呂に入りたくてたまらなかった。だから気持ちはわかる。

「慌てんなよ、馬鹿夢野!温泉は逃げねぇだろ」

「た、確かに!」

はぁっと深いため息をついて夢野さんにチョップしたのは、切原だった。チョップが痛かったのか、納得して少し落ち着いた夢野さんは頭をさすっていた。
……なんだか少しだけ悔しい。

「う、うん。源泉の温度は少し熱いくらいだけど、ど、どうやら……あの滝の水が混ざってちょうどいい温度になっているみたいだね……で、でも壮観な露天風呂だね、はは……っ」

「わぁ、じゃあ入浴できるんですね……っ!」

河村さんが温度を調べてくれたらしく、夢野さんは爛々と瞳を輝かせていた。
……なんだかこう見ると
「お前も普通に女なんだな」

「な、なんですとう?!柳さん、超私に失礼だ!」

「……お前にそれを言われるとは心外だな」

……焦った。
うっかり柳さんと同じ台詞を口から出してしまうところだった。
ぷくぅっと頬を膨らませて怒っているらしい夢野さんの横顔を眺めながら、そっと息をつく。

「とりあえず、今晩から風呂には困らないっすね」

切原が欠伸をしながら言えば、河村さんが苦笑しながら頷く。
そして夢野さんが「え?」とそんな切原と河村さんを二度見していた。
……夢野さん、動きが何かに似ていると思っていたけど、今わかった。プレーリードックだ。

「あ?な、なんだよ……」

「え、いや、あの、今は……?入っちゃダメなの……?」

「え!夢野さん、今入る気だったの?!」

切原にぽつりと呟いた夢野さんに思わずつっこむ。

「夢野さん、ば、バスタオルとか……今持ってきてないし……」

「じゃじゃーん!」

「……パンダ柄のバスタオル……、リュックの中に入れて持ち歩いてたんだね。はは、さすがというか……」

河村さんの台詞に夢野さんはパンダリュックからパンダ柄のバスタオルを取り出してみせる。あのリュックの中にずっと入ってたんだ……と妙に感心してしまった。河村さんは驚きで笑うのもぎこちなくなっていたけれど。

「だからお願いします!後生です!私に暫し入浴時間を下さい!!」

夢野さんの話しによると、パンダリュックの中には、水浴びでもなんでもいいから体の汗を流した後に着替えようと思っていた唯一の着替えの服も入っているらしかった。

「で、でも……」

俺が困惑していると、柳さんがニヤリと笑う。

「まぁいいんじゃないか。俺たちが夢野の入浴を覗くわけないしな」

「は、はいっ!そ、そんなことしないっすよ!つか見たくないっす!」

真っ赤になりながら大声でそう言った切原は説得力ないと思う。

「私、鳳くんと河村さんのこと信じてます!」

「え、あ、う、うん……」
「は、はいっ」

頼りなく笑った河村さんに続き、俺は勢いよく返事した。

柳さんが開眼し「ほう。俺への挑戦状のつもりか」と台詞を呟いていたので、頑張って柳さんから夢野さんを守りたいと思う。
あと、明らかに意識している切原からも。



……でも本当は、切原と同じように意識してしまっていたんだ。

夢野さん、ごめん
俺を信じてるって言ってくれたのに、君が岩の壁の向こうで温泉に浸かっているって思うと──


「……どうしようもないな」

熱が、冷めない

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