足音が出ないよう慎重に移動するのが、なかなか難しい。
「……よっ、ほ!」
「やーはぬーそーが?」
「ひゃあ?!」
足音ばかり気にしすぎて、自分の独り言をすっかり忘れていた。
私は大馬鹿者だ。
不審者を見る目で私を見つめている平古場さんにへらっと笑って誤魔化そうとしたら、むにっとほっぺを抓られた。
痛い。めちゃくちゃ痛い。
「ぬーそーが?」
「……すみません、わかりません」
「……だから凛は、お前は何してるんだ?って聞いてるさー」
「…………び、尾行?」
ひきつりながらまだ笑顔を続行しようとしたら、平古場さんの指がさらにぐねりと私の大切な頬肉をいじめてきた。
じんわりと目尻に涙の粒が浮かぶ。
「凛、やめてやるさー。また泣かれたらちゃーすんばー……」
「な、なひまふぇんひょ!!」
甲斐さんの台詞に必死で声を張り上げたら、平古場さんがくっと喉を鳴らして私の頬から手を離す。
「やーは変」
「それは悪口だってわかりますよ?!」
「いや誰だってわかるさー」
「やーはふらー」
「ふ、ふらー?」
「今馬鹿って言われてるさー。ってそこは気づかないとか……」
にやにやしている平古場さんの隣で甲斐さんが頭を抱え始めた。
な、なんだろうか。何故か疲れた表情を浮かべている甲斐さんに罪悪感を感じてしまう。
え、いや、でも私が悪いの……かな?
「で、やーはいつまでわったーの後ろ、ついてくる気さー」
「どこまでも!」
平古場さんに気合いを入れて答えたら、額を勢いよく叩かれた。
……平古場さんは女の子にも容赦なさすぎである。
「……イナグ?」
「甲斐クン、平古場クン、一体何をしているんですか」
平古場さんが(たぶん)また失礼なことを口に出したと同時だった。
訝しげに私を見ながら、木手さんが前方より現れたのである。
……よく見たら、木手さんの後ろには田仁志さんや知念さんの姿もあるようだった。
「……木手さん、私、昼間皆さんが話していたのを聞きました」
「?!やーは……」
隣の甲斐さんが目を見開いて私を見るのと、木手さんの表情がさっきよりも険しくなったのはほぼ同時で。
思わず逸らしそうになったのをぐっとこらえて、木手さんを見つめるのだった。
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