昼食を食べてる時あたりから、なんかそわそわしてるよねー?って跡部と滝に言ったら、跡部は難しそうな顔を一瞬だけした。
すぐにいつもの跡部になったんだけど、俺の目は誤魔化せない。
「……うん、俺も思ってたんだけど。ちらちら跡部を気にしてるよね?……恋?」
滝が真剣な顔で冗談を口にする。跡部がむせた。俺は面白くなかったので、唇を尖らせながら滝の背中をつつく。
「あぁごめんごめん。冗談だって」
「今度その冗談言ったら、俺、滝のこと嫌いになっちゃうかも〜」
「はいはい」
苦笑しながらヒラヒラ手を振る滝は、きっとたいして気にしていないんだろう。
むぅっと、さらに唇を尖らせた。……あ、壁にもたれていたら、なんか眠くなってきたかも。
……ぼんやりと眠気に誘われる。
跡部と滝の話している声が遠のいて、不意に誰かの影が俺に被さった気がした。
あぁ。
樺地かな、なんて。
いつもありがとー、と目を開けることもせずに心の中で呟く。
不思議だけど、樺地はいつもその心の声が聞こえたみたいに「……ウス」と返してくれるんだ。
マジマジ樺地、エスパーだよね!
だけどその時聞こえてきたのは樺地の声じゃなくて、少し高めの柔らかい声だった。
「……まったく、風邪引いても知りませんよー。ジロー先輩」
「……っ、詩織ちゃん!!」
「ぶあっ!い、痛ーっ」
思いっきり勢いよく顔を上げたら、屈んでいたらしい詩織ちゃんの顎に俺の頭が激突したらしい。
詩織ちゃんは涙目のままうずくまっていた。
「……きゅ、急に起きないでくださ……い」
「マジマジごめんだC!でも、詩織ちゃんだったんだもん」
「へ?」
意味がわからないと言った表情で俺を見ている彼女が、何故かその時は異様に可愛く見えた。
……いつも可愛いんだけど、なんていうんだろー。輝いてるみたいな?
「……詩織ちゃん、一緒に寝よ!!」
「い、嫌ですよ」
笑顔で言ったら、動揺した詩織ちゃんにまた幸せな気分になる。
……些細なことで、ころころと表情を変える君は、きっとまだなんにも気づいてない……よね?
だったら、いいんだ。
……もう少し
もう少しだけ、大好きな君の夢を見せて欲Cー。
……わがままだなんて、言わないでね。
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