「……おはよう」
元気よく挨拶したら、うるさいと顔にかいてある若くんが小さく返してくれた。
それから忍足先輩や岳人先輩にも声をかけられる。そのたびに声を張り上げた。
「……うむ、朝から気持ちのいい挨拶だな。感心したぞ」
「ふぉ」
突然背後で仁王立ちしていた真田さんに誉められてしまった。
……なんで真田さんはこんなにもお父さん臭がするんだろうか。貫禄ありすぎである。
「……誰がお父さんか!」
「ひい!!すみませんすみません」
カッと仁王像のような表情をされてしまったので、びっくりし過ぎて尻餅をついてしまった。
丸井さんと切原くんが笑っている。いや笑っているんじゃなくて笑われているのか。畜生。
「大丈夫ですか?夢野さん」
「ほれ、掴まりんしゃい」
それから柳生さんと仁王さんが同時に手をさしのべて下さったので、感謝を述べながら二人の手を取ったら「な、なんだと……?!」とデータマン二人が驚愕していた。
「……んふっ、おかしいですねぇ。夢野さんは仁王くんには苦手意識を持っていたはずですが。裕太くん、君は何か知っていますか?」
「……え、俺は……何も」
それから観月さんまで首を傾げられる。というか裕太くんが返答に困るような質問やめてあげてください。
すごく泣きそうな困惑した顔しているじゃないか。
「ただ誤解していただけです。仁王さんは誠実な人だとわかりましたか……ら……?」
何故だ。
どうした。
なんで比嘉のみなさんまで固まって私を見るのだ。しかも全員が『お前頭大丈夫か?』みたいな白けた目で。
「…………プリッ」
「っ、に、仁王くん!貴方は夢野さんに一体どんなイリュージョンを……っ」
「夢野さん、もしかして熱でもあるんじゃないかな……俺、心配だよ」
「そやで?!俺はまだ変態扱いやいうのに、これが先に誠実になるやなんてありえへんやろ」
「……ひどいヤツらナリ」
取り乱す柳生さんに私を真剣な目で心配する幸村さん、そしてふてくされた顔をした忍足先輩を眺めながら、泣き真似をしている仁王さんを見て、昨夜の私が見たものは幻なんかじゃないよね?と不安になってきた。
あの時確かに仁王さんは真実を語る瞳をしていたのだけども。
とりあえずそのような状況下で食べた朝食はまったく味がしなかった。
……うぅ、壇くんと葵くんが作ってくれたらしいのに申し訳ない。
「そして気を取り直して山菜採りに出かけます」
「……その台詞はいったいどこに接続しているんだ。はぁ」
眉間にしわを寄せている若くんは私の独り言に健気に付き合ってくれる貴重な人だ。
「まぁまぁいつものこといつものこと」
「……ふん。そういえばお前、今日は朝からやたら元気だな」
「嬉しいことがいっぱいあったのだよ、内緒だけども」
「それは──」
何かを言いかけた若くんはそこで言葉を止め、ぺしりと軽く私の後頭部を殴ってきた。
ニヤニヤした私の顔が気持ち悪かったようだが、ぺしぺし女の子を殴るのはよくないと思う。
「おーい、そこの日吉と詩織のアホ。はよ行くで」
「はーい!って誰がアホなの、光くんっ」
叫んだけど光くんには無視された。
優しい十次くんが慰めてくれたので泣かない。
今回の山菜採りメンバーは、若くんと私、光くん、十次くん、薫ちゃん、鉄くん、それから何故かさっきからやたら毒草に詳しい白石さんである。
私は先日真田さんが出れなくなっていたベッド下にて発見されたキノコ図鑑を手にしているが、草に関しては白石さんがいれば大丈夫っぽい。
ますますもって白石さんという人物への謎が深まる。
「……まぁ白石部長の親父さんが薬剤師やからやと思うんやけど」
「そうなんだ。てっきり毒手の続編かと」
「……なんだ、その毒手ってのは……」
光くんに白石さんのぷち情報を聞いていたら、薫ちゃんが毒手にまさかの反応を示した。
その瞬間に光くんが意地悪そうな表情を浮かべ嘘八百を並べそうだったので、必死に阻止する。
若くんにうるさいと怒られた。理不尽である。
その後は黙々とキノコ採りに励んだ。
キノコを見る度に、若くんと、さきほど薫ちゃんが変なことを信じないようにした頑張りを怒られたことを思い出してムカムカするので「若くんが一匹、若くんが二匹」とぶつくさ言いながら作業してやった。
若くん本人は白石さんと食べられる草や木の実を採っているので少し離れている。
だが近くで作業していた十次くんと鉄くんには、淡々とした呪文のようなそれが聞こえていたらしく、ずっと苦笑されていた。
……なんというか、二人には心からお詫びしたい。
その後、跡部様に採集結果を報告する際「ほら見てください!若くんがいっぱい採れました!!」と大声で言ってしまい、若くんにこめかみをぐりぐりされた挙げ句、森くんにまた爆笑されたのだった。
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