夜はただ更けていく
「……色々見ゆるもんばい。……それに今宵の月は美しかねぇ……」

夢野詩織さんが使っている管理小屋から出て行った人影を見送り、そのまま真上の月ば仰いだ。
ちらちらと降るような星たちにも息を吐く。


「……千歳、こんなところで何しとん?」

「なーんもなかよ」

声ばかけられた方向に振り向けば、小石川が立っていた。

「そっちこそなんね?」

「俺は……ユウジに布団取られたから跡部くんに予備がないか聞きにいくとこや……」

ユウジは小春の代わりに布団を二つ抱き締めて寝ているらしい。
どうやらその被害者が小石川のようだ。

「俺のあまってなか?」

「アホ。そしたら今度千歳が困るやろ」

「……お人好したい」

「わかっとる」

遠い目ばして夜空を見上げた小石川に小さく吹き出す。

「……じゃあ俺も一緒に行くたい」

「……おーありがとーなぁ」

「それに今ならこの星空に合うBGM付きばい。幻想的じゃなか?」

「……そうやな」

ずっと管理小屋から流れとるジャズっぽい音楽に耳ば傾けながら、小石川を見れば、小石川は音楽の存在に気付いたように目ば細めた。


彼女の抱えていた何かは、今はもうすっかり黒い雲ば払い日の光ば受け入れたようだ。

きっと変わっていく。

このごたごたした合宿ば経て、今まであったものが大きく変貌するだろう。

……それは、遠く、ただ眺めていただけの俺にも訪れるもんかもしれん。

「……そうや、不動峰の橘とは話せたんか?」

「あー……」

桔平が気にしてるんは知っとっと。

「……まぁなんとかなるとよ」

そうか、と笑った小石川の頭上に顎を乗せてもたれかかったら、髪の毛がちくちくした。
すぐに「何しとんねん!」と盛大につっこまれる。

「……熱ぅー風呂に入りたかー」
「それは俺もや。……待て、なんで今のタイミングで言うんや?!……俺、臭っとる?!そんな臭いんか?!」
「大丈夫。みんな一緒ばい」
「……臭いんやな」

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