マスコット的な……
「……彼女、なんか……からかわれ過ぎで……見てて不憫になってきます」

「ふむ。だがまぁ好かれてるようだから、嫌われるよりはいいだろう」

さして興味がないのか、赤澤部長はそのまま食事を続けていた。

俺はもう一度だけ視線を夢野詩織さんに向ける。
彼女と初めて顔を合わせたのは、関東大会の青学対氷帝戦を観にいった時だ。
観月さんたちからそういう子がいるという話だけは聞いていたけれど、初めて彼女の大きな独り言を目の当たりにした時の衝撃はハンパなかった。


「……クスクス、金田。見過ぎ」

「え?!」

「あぁ、もしかして金田くんも心理学というものに興味がありましたか?」

斜め前にいた淳さんが俺の顔を見て笑っていた。観月さんは少し……いやめちゃくちゃ見当はずれの台詞を口に出している。

「い、いえ!な、なんでもないんですっ」

先輩たちの視線が俺に注がれたので、慌てて下に俯いた。

「金田は一体何を凝視してたんだーね?」

「……い、いえ、その俺は」

柳沢さんが答えない俺をじれったく感じたらしく淳さんに視線を向けたが、淳さんは意味深に笑ってから「さぁね」と短くはぐらかす。
裕太が夢野さんに対して何か特別な感情を抱いているような雰囲気があったので、裕太に変な方向に勘違いされなければいいなと願っていた俺にとって、淳さんが誤魔化してくれたのは助かった──

「……金田が気にしていたのは彼女のことだそうだ」

──と思ったのに、赤澤部長のその一言でまたひどく焦ることになる。

俺はただ、夢野さんがあまりにも色んな人たちにからかわれているので大変だなぁという同情の意味で見ていたのだけど、変に誤魔化した後に発覚したせいでいろいろと意味を誤解されかねない。

「お。まさか金田の好みのタイプだったか?弟君、どうするライバル出現だ!」

ばか澤コノヤロウと心の中で悪態をついた後、頭の中で野村さんの首を絞めた。すみません、赤澤部長。野村さんの方がよっぽとバカです。

「な、んの話ですか?意味分からないんですけど」

いつもなら弟君呼ばわりされたことに怒るはずの裕太が、余裕を失っているのかそこに触れない。
ああ、やっぱり俺が思っていた通りなんだ。


「……クスクス、面白くなってきたよね。遭難中なのにみんな余裕あり過ぎ」

それから小さく独り言を呟いていた淳さんの台詞が聞こえて、深く溜め息を吐き出す。

……そうなんだ。
俺たちは遭難中なのに。

もう一度辺りを見回して、比嘉中の席で落ち着いたらしい夢野さんを視界にいれた。
すぐに目線を戻して食事の残りをかけ込む。
観月さんたちの視線を感じた気がして、味がまったくわからなかった。

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