「……どうしたんですか、なんでやねんっとつっこめばいいんでしょうか私は」
忍足先輩が流し目な上アホな台詞を口走った。
ついにホストになる覚悟を決められたのだろうか。いやだから恥ずかしいって言ってるじゃないか!
「詩織ちゃん、マジマジ俺の方が大好きだC〜!」
「あ、俺も(見てて面白いから)好きだよー」
「ジロー先輩起きないで!そしておかしいな、私滝先輩の心の声まで聞こえました!」
何やら氷帝席の居心地が悪くなった。忍足先輩め、覚えていろ。まったくけしからん!と呟いてから、けしからん繋がりで真田さんのところに逃げようかと思ったのだが、忍足先輩と同時に席を立った幸村さんが、思い詰めたような顔で一点を見つめてから、少し頬を紅潮させ咳払いしている。……乙女がいるよ。
それに立海席はチラチラと仁王さんと丸井さんがこちらを見ているのが怪しいし、切原くんが泣きそうな顔で「絶対に来るな!」みたいな顔しているので行けるわけがない。
六角席はことの発端の葵くんがいるのでまず無理だ。
青学席は「ほう。心理学のデータが取れそうだ」と呟いている乾さんが怖いし、ルドルフ席も観月さんが「試してみるのも面白いかもしれませんね。んふっ」と笑顔が怪しいし、野村さんが言う気満々らしい。遊び半分で私の心を弄ばないでください。お願いします。
同じ理由で山吹席も危険である。主に千石さんが。
ちなみに考えるまでもなく四天宝寺席は選択肢にすら入らなかった。何故なら金ちゃんと小春お姉様を代表に好きやでコールを私に下さっているからである。一氏さんが唯一「俺は嫌いじゃボケ、安心しろ」とコールの間に見事な毒を吐いてくださっているが、これはこれで地味に心のダメージである。
「……というわけで、私の安息の地はどうやら不動峰のようです。悪のり反対」
「誰がするかよ。お前みたいな変なやつに好かれたがるわけねぇだろー」
とりあえず神尾くんの二の腕の肉をつねってやった。あまりにもはっきりと否定されたので悔しかったのである。……わがままだけども。
「でも俺は夢野可愛いとは思うぜ?……黙っていればだけど」
「マジかよ、内村。お前趣味悪いな」
「俺は夢野の喋りがあるからこそ、夢野って感じでいいと思うけどな。面白すぎるぜ、ほんと」
「森くん、私は何も目指してないよ……!」
神尾くんの首を絞めながら森くんにツッコミをいれていたら、前の席に座っていた深司くんがぼやきはじめていた。
「……なんだよ、ほんと……詩織もさぁ、少し懐かれたぐらいで……ムカつくなぁ。この展開。……何?俺も言えばいいわけ?好きだよって?そんな単純なことで心動くわけないだろ……好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ好きだよ……」
「ひぃいぃっ、深司くん、それ何か呪われそうだからやめてー!」
無表情で淡々とお経のように呟き始めた深司くんが怖いのと、乙女の心臓に悪いのとで、最終的に私は比嘉の皆様の中に混ぜてもらうことにした。
始め怖かったはずの平古場さんとかすごく話しやすかった。
とりあえず、貴重な好意の台詞もあれだけ聞くと有り難みなくなるよね。と口に出しそうになったのだけど、今度はアホとかバカとかブスとか罵倒され始めたら心が挫けそうなのでこらえたわけである。
……ヴァイオリンを弾いたら、今みんなによって乱された精神は落ち着くだろうか。
なんてぼんやりと考えたのだった。
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