「というわけで、今から魚を釣りに行って来ようと思うんですが、一番大きい魚を釣ったら僕と付き合ってください!」
「ま、まったくもってどういうわけかわからないんだけど……!」
気合いを入れて大きく手を振りながらそう叫んだら、夢野さんは真っ赤な顔で戸惑っていた。
あぁ、その戸惑った顔も素敵です!可愛いです!
「……また剣太郎のアレが始まったのね〜」
「プレッシャーかけて……って、なんか半分本気で言ってる気がするけどな」
「……夢野さん、剣太郎のアレは可愛い女の子に必ずいうやつだから」
「ちょ、違いますよー!僕は全部本気で言ってるんですってばー!」
いっちゃんも首藤さんも亮さんもひどい。
これでは夢野さんにいつも女の子を追いかけてる冴えないやつみたいに思われてしまうじゃないか。というより、そうなったら、モテない記録を更新してしまう。
「とりあえず、六角中移動するよー」
夢野さんへラブアプローチを続けようとしたら、サエさんに腕を回されて連行される形となってしまった。
しかも魚釣りは中途半端な大きさばかりだったし、肝心の夢野さんは青学の越前くんと水くみに行っていたらしい。
「お、同じ一年生として負けないぞ!」
「……は?」
……越前くんには変な目で見られてしまったが、僕は挫けない。
午前中、オジイを探さなきゃと焦る僕を優しく慰めてくれた夢野さんはまさに天使だった。
そして僕はこう思ったんです。
きっと、夢野さんは僕に気があるんだと……!
「……辛いな、色々と」
「そうだな、残念だ。色々と」
気合いを入れ握り拳を高く掲げたら、草むらから飛び出してきた柳さんと乾さんにそう肩を叩かれた。
……すみません、意味が分かりません。
気を取り直して、見つけた缶詰めや調味料、午前中に釣った魚をどうにか調理した昼食時間には「夢野さん、惚れました!人一倍おかわりしたら、付き合ってください!」と伝え(結局樺地さんと田仁志さんに負けた)、午後の作業中、夢野さんを見かけるたびに「好きです!オジイが無事に見つかったらチューしてください!」など伝え続けた。
そしてその日の夕食の時、とうとう僕の熱い愛が夢野さんに通じたのである。
「いやもう、本当に……葵くん、私溶ける。消える。死ぬ。……そんなに好き好き言われ続けたら、好きになっちゃうタイプの子もいるんだよ?まさしく私がそのタイプな予感だからさ。いくら私しか女の子がいないからと……」
「なんやて?」
「……夢野さん、今の本当かい?」
夢野さんが僕を好きになりかけていると発言してくれたのだ。
だけど、ここからが難関だった。
夢野さんの発言に真剣な顔をして、氷帝の忍足さんと立海の幸村さんが食事の途中だというのに席から立ち上がる。
他にも数人が目の色を変えていた。
「……はぁ。お前今すぐにさっきの発言を訂正しろ。じゃねぇと、しらねぇぞ?アーン?」
「え、あ、跡部様、ど、どこの部分ですか?!むしろテンパった私は今なにを口にしましたか?!わ、若くん、鳳くん、なんでそんな微妙な顔してるの?!」
そして僕はこの恋の障害を知ることになる。
24/110