彼女の笑顔に救われる
「ちょ、そんなに私をこき使いたかったんですか?!」
「そ、そうだよぃ!夢野のバーカアーホ!鈍感っ」
「なんだこの年下みたいな先輩!ちょっと可愛いからってそんなことばかりしてたら、女の子に嫌われますよっ」
「う、うるせー!」
「ちょ、丸井先輩!……っ、夢野の裏切り者ーっ」
「えぇ?!」

山小屋や周辺に何かないかと全員で捜索した後、跡部が見つかったものを整理し始めたタイミングで、夢野さんと丸井、切原が何やら揉めているようだった。
……いや、というよりも一方的に夢野さんが文句を言われている感じだけど。

「んー?夢野ちゃん、どうかしたにゃー?」

俺が夢野さんを見ていることに気づいたのか、隣にいた英二が彼女に手を振る。

「……いえ、何やら私を馬車馬のようにこき使えなかったのが悔しいらしいです……」
「にゃはは!なんだそれー?」

腹抱えて笑った英二も俺と同じように、丸井と切原がそういう理由で拗ねてるんじゃないことぐらいはわかっているはずだが。
まぁ……彼らの問題だから、お節介は必要ないか。

それに……彼女が二人を恋愛感情でみていないことにホッとしたのが本音だった。


「……大石さん、やっぱりオジイたちの消息が掴めないですね」

「……あぁ、そうだな。こうなったら、跡部や手塚にもう一度掛け合ってみるか」

駆け寄ってきた葵に頷いて、大体の食料や備品などを把握したらしい跡部に近づく。

「跡部」

「大石、葵。お前ら二人が言いたいことはわかっている。だが、ここは榊グループが所持しているといっても、開発途中のまま放置されていた無人島だ。むやみやたらに先生方捜索を許可することはできない」

「……グループを決め、捜索班などをきちっと決めてから、捜索範囲も特定した方がいいだろう」

「それはそうだけど……」

「もしかしたら、オジイたち怪我して動けないのかも……っ」

葵の台詞に大きく頷く。跡部と手塚は難しい顔のまま、観月が見つけてきたらしい地図を見ていた。

「大石、部員を危険にはさらしたくないんだ」

手塚の真剣な表情に言葉が詰まる。
確かに跡部と手塚がいうことはもっともだろう。だけど、竜崎先生たちの身に何かあったらと考えるだけで胃が痛くなった。

「大石さん!葵くん!先生たちや榊おじさんは無事です!きっと大丈夫ですよっ」

「……夢野さん」

英二と一緒に俺たちに近付いてきてそう言ってくれたのは、夢野さんで。
必死にそう言い笑顔を作る夢野さん自身が自分に言い聞かせているようにみえた。
だからだろうか。
無責任な励ましのように感じなかったのは。
一番そう信じたいのは彼女自身なのだ。

「……夢野さん、取り乱してすまない。榊さんも一緒なんだ。きっと先生方は無事だね」

「そうですね!オジイも無事ですよねっ」

「はい!」

そう笑った夢野さんは妙に眩しくて、心が軽くなったような気がしたのだった。

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