彼女の両隣を歩いていた日吉くんと鳳くんはもちろん、先頭集団も振り返って足を止めた。
日吉くんと鳳くんが遠慮がちに彼女の頭へと手を伸ばす。
自分が船に乗ってしまったせいでごめんなさいというような内容を口走っている詩織ちゃんに胸が少しばかり痛んだ。
俺ももう少し彼女のそばにいれば、無意識に手を伸ばしていたかもしれない。詩織ちゃんの小さな背中がより小さく見えて、包んであげたい想いにすら駆られる。
だからほぼ無意識に伸ばしていたんだろう日吉くんと鳳くんの手は、彼女の頭の上で見事にかち合い、二人とも慌てて手を引いていた。
その瞬間に別の大きな手が彼女の頭を優しく撫でる。
「……か、樺地くん」
いつの間に詩織ちゃんのそばにいたのかわからなかったが、樺地くんが彼女の頭を撫でていたのだ。
これには日吉くんと鳳くんも唖然としている。少し顔が赤いのは、樺地くんが今している行為を本当は自分たちがしたかったからだろう。
「……うーん、アンラッキーだったねぇ。二人とも」
「な、何がですか?!」
「別に……っ」
ニヤニヤと詩織ちゃんたちに近付き、日吉くんと鳳くんの肩に手を置いてコソリと耳元で囁いた。
余計に顔を赤らめ慌てる二人にまた笑ってしまう。
「あ、ありがとう、樺地くん。そ、その、皆さんもすみませんっ」
「……ウス」
「詩織ちゃん、大丈夫かい?もし辛いなら俺がお姫様抱っこでもしようか〜?」
みんなが足を止めていることに気付いた詩織ちゃんは青くなっていたので、できるだけ明るい声でウィンクしてみせた。
「せ、千石さんっ」
そんな俺を日吉くんたちは睨んでくるし、後ろから室町くんが怒って走ってやってくる。どれだけ信頼ないの、俺。
「だ、大丈夫です!だから、その……ありがとうございます!千石さん」
未だ涙目で俺に頭を下げた詩織ちゃんにそっと目を細めた。
「……なら行くぞ。……っ、おい、比嘉っ!てめぇら勝手に行くんじゃねぇ!」
「んなのわったーには関係ないさぁー」
「甲斐クンの言うとおりですよ。何故我々が君たちと同じ行動を取らなきゃいけないんでしょうね」
いつものようにリーダーシップを発揮していた跡部くんに反発したのは、沖縄の比嘉中のようだ。
やれやれと肩を竦めていたら、隣にいた詩織ちゃんが急に走り出した。
「す、すみません!このような状況下で揉めては……っ、跡部様は独断的な方ではありますが、きっと、皆さんの安全も考えられているはずです……っだから──うぉお、なんでまた出てくるの私の涙ぁあ……」
本当につくづく目を奪われる子だと思う。
「……けっ、びーびー泣きやがって」
舌打ちした亜久津を一度見てから、小さく息を吐いた。
「ラッキー千石、のはずなんだけどなぁ……」
ほんのりと彼女に惹かれつつあるこの心を抱いていることは、果たして運がいいのか悪いのか。
今の俺には答えがでそうにない。
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