呪われてるんじゃないだろうか
「……っ、おいっ」

「ん……いっ、いったぁぁあっ?!」

パシィっという音と共に私の左頬に痛みが走った。目がチカチカする。いや、それよりも眩しすぎだ。

視界の端に青空が見え、眩いばかりの光を放つ太陽を背に、誰かが私をのぞき込んでいる。

痛みを訴えながら目を見開けたら、逆光で影になっている人物がふんっと鼻を鳴らした。

「やっと起きやがったか……」

「くそう、目覚めに跡部様とか何の罠──」

そこまで口に出してからハッと上体を起こす。勢いをつけすぎたため、私は跡部様に頭突きを食らわしてしまった。
「うっ」と呻いた跡部様だが、私を睨んでから何事もなかったかのように引き起こしてくださる。……後で呼び出しとかあったらどうしよう。

「いや、今はそんな場合じゃなくて……っ」

「夢野ー、お前よくこんな状況で寝てられるなー感心するぜー」

辺りを見回したら、綺麗な砂浜の上だった。テニス部のみんなの姿にホッとする。
声をかけ苦笑している桃ちゃんの様子は、いつもより落ち着かなさそうだ。
それもそのはず。

「榊おじさん……っ、せ、先生方は?!それに昨夜、一体何があったんですか?!」

姿のない大人たちに不安が募る。
豪華客船に乗っていたはずの私たちが、一体どうして小型ボートでどこかわからない海岸にいるのだろうか。
思いだそうとしても、嵐に遭っていたことしかわからない。

「……落ち着け」

「でもっ」

「いいから深呼吸してみろ。……俺たちは海難事故に遭い、やむを得なく小型ボートで脱出し、この場所に流れついたんだ。……榊監督たちや船員たちは違うボートに乗っていた。今先生方の姿はどこにもない。だが、潮の流れからこの島に辿り着いた可能性は高い」

真剣な顔の跡部様にごくりと唾を飲み込む。

「跡部。大石たちの報告によれば、向こう側に山小屋らしき建物が見えたらしい」

「アーン、わかった。手塚。こっちも忍足たちから報告は受けた。……おい、お前ら聞け。どうやら、ここは元々合宿に使う予定だった島で間違いないらしい。前もって合宿に必要なテニスの備品やら、水。調味料などは別便で山小屋に運び込んでいたはずだ。とりあえず、そこに向かうぞ」

「ま、待ってください!先にオジイたちを探しちゃダメですか?!」
「そうだ。竜崎先生たちも近くにいるかもしれない!」

手塚さんの報告を受けた跡部様が皆さんに声をかけると、葵くんと大石さんが叫んだ。
二人とも本当に心配そうな表情で、見ているだけでも胃のあたりがきゅうっと痛くなる。

「ダメだ。この島はかなり広い。闇雲に体力を消耗するよりも、先に山小屋に向かう方がいいだろう。それに先生方もこの島に流されているならば、必ず山小屋を目指すはずだ」

「確かに……もしかしたら先生方は山小屋で待っているかもしれないね」
「ふむ、その可能性は否定できないな」
「先生方が先に山小屋についている確率五十パーセント……」

跡部様の言葉に幸村さんが同意すると、続けて柳さんと乾さんも小さく頷いていた。

それから南さんと東方さんが人数を確認していたらしく、先生方以外は全員いることがわかる。

「……夢野、お前の荷物だ」
「夢野さん、離そうとしなかったから……ちゃんと無事だよ」

「……え、ありがとう!若くん!鳳くん!」

とりあえず、移動だとみんなが歩き始めたと同時に若くんと鳳くんが近付いてきて、私のパンダリュックとヴァイオリンケースを手渡してくれる。
鳳くんの話によれば、ヴァイオリンケースが濡れないよう跡部様がビニールを巻いてくれていたらしい。
二つをぎゅうっと抱き締めたら、ほろりと涙が零れ落ちた。

「夢野さん……」

「あ、あれ。ごめん、鳳くん、ヴァイオリンが無事で……濡れないようにしてくれたのも嬉しくてでも……なんか、色々ありすぎて……ひっく、わかんないんだけど涙がっ、止まらな……っぐすっ」

みんなにおいて行かれないようにと足だけを動かしているが、砂浜にボタボタと黒い点々が出来ていた。
心配そうな表情の鳳くんに必死で言い訳して、涙を止めようにも、うまくできない。

「……わた、私、周りの人を不幸にする体質なのかなぁ……あ、ふっぐぅ……」

鼻水が大量に出てきたから、慌ててパンダリュックに顔を埋めた。

「……夢野」
「夢野さん」

若くんと鳳くんが明らかに困っている。
表情は見えないが、絶対そうだ。大体泣きたいのだって彼らもだろう。だから余計に泣き言なんて言っちゃダメだ。
それはわかっているのに、あの飛行機事故が頭の中に過ぎり、どうにもできない。

もしこれで榊おじさんが亡くなってしまったら?そう考えるだけで頭の中が真っ白になる。

お父さんとお母さんが死んだのも自分のせいじゃないのか、私は一生乗り物に乗らない方がいいんじゃないだろうか。
ぐるぐるとマイナスなことばかりが頭の中を廻った。

「…………そんな……こと、ありません」

不意に頭を撫でられ、心地良い音色に顔を上げたら、すごく優しい笑顔を浮かべている樺地くんだった。

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