盛大に舌打ちしてから、隣で肩を竦めている萩之介と心配そうな表情の樺地に目をやる。
とりあえずは避難が最優先だ。
船に用意されていた小型ボートに移動するヤツらを見ながら、声を荒げる。
「おい、ロープに足を引っ掛けないよう気をつけろっ」
「ご、ごめんにゃー、跡部ー」
「手塚っ、ここは任せたぞ。部長命令を無視した馬鹿者共を探して──」
「堪忍な。この通り全員戻ってきたで。もちろん詩織ちゃんもな」
「ちっ」
夢野のことは榊監督に任せてあるという俺の台詞を無視したメンバーを見回した。
どいつもこいつも、かけだして行きやがって。
俺様の計画が台無しだ。
……そう、この海難事故もすべて先生方と俺様、そして手塚の計画である。
そして今から遭難し辿り着く島も、そこで行う簡単なサバイバルも、大幅な体力、精神力を鍛えるための仕組まれた合宿なのだ。
「……ん」
ぴくりと表情を険しくさせて涙を一粒流した夢野に我に返る。
日吉に抱き抱えられている夢野は悪夢に魘されるように短い間隔で首を振っていた。
巻き込むつもりなどなかった。
悪戯にトラウマを甦らせるようなこともしたかったわけじゃない。
夢野の存在は始めから含まれていなかったのだ。
だがこうなってしまった以上、夢野もサバイバル合宿に参加してもらうほかないだろう。
「……馬鹿夢野め」
俺様の仕事を増やしやがって。
……ただその反面、退屈はしなさそうだと思っちまった自分自身に鼻で笑ってしまったのだった。
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