昔々、ウザー王子が……
──リョーマくんの台詞にそれもごもっともだと恐る恐る顔を上げる。

リョーマくんの肩越しから窺うに、平古場さんという方はめちゃくちゃ不機嫌そうだった。
っていうか、始めに彼のサラサラストレートの金髪を見て、瞬間的に何年か前の記憶が蘇ったのがまず悪い。

「……む、昔々、いや数年前に両親が行った海外コンサートのためのヨーロッパ遠征時のことなんですが。……その時お世話になったお家の息子さんがいまして。その子が金髪サラサラストレートの男の子だったんです。初めてその子を見たとき絵本の王子様?!みたいな感覚になりまして……平古場さんの後ろ姿を見たときにその子を思い出したんです」

「……へぇ、それでさっき王子とか口にしてたんだ?」

「でも、どうして怖がっていたんだい?」

リョーマくんの台詞に無言で頷いたら、続けて河村さんが声をかけて下さった。というか今気付いたのだが、皆さん食事しながら私の話に耳を傾けてくださっているように見える。
いや、あの、え?とびっくりして挙動不審になりながら、優しい表情の河村さんが一番落ち着く気がするので視線を向ける。

「……いえ、その、最終的に私の中で彼のことをウザー王子という負の感情に偏ったネーミングのあだ名をつけるようになるぐらい……、大嫌いだったんで」

「え!マジマジ?!詩織ちゃんが大嫌いっていう人、初めて聞いたC〜っ!」
「ふむ。それは興味があるな」
「俺の情報によれば、氷帝の忍足や立海の仁王、四天宝寺の白石でも、苦手レベルで止まっているはずだが……」
「ちょ、待って?!俺、その二人と同列なん?!ショックやねんけどっ」

私の台詞にジロー先輩や柳さん、乾さんが驚愕されていた。この際、忍足先輩と仁王さん、白石さんが落ち込まれていたことはスルーしたい。
本当はその情報収集している人たちも苦手なんだけども。とか、でも大会などを通じて、皆さんのことをかっこいいとか思ったなんて口が裂けてもいえないと思う。

「……いや、詩織センパイ独り言になってるから」
「ぎゃあぁ?!」

帽子を被りなおしたリョーマくんや目を合わせていた河村さんが苦笑しているのを見て、とりあえずその場にうずくまった。
桃ちゃんや千歳さん、神尾くんに笑われた気がする。というよりも、不動峰のみんなは特に笑いすぎだ。橘さん以外笑ってるじゃないか。
森くんに至っては笑いすぎで目尻に涙の粒まで浮かんでいる。……何が彼のツボにはまった。

「変なヤツやっさー。凛、これじゃイライラした方が負けさー」

「……裕次郎」

平古場さんと同じ学校の髪型が左右に特徴的な人が近づいてこられる。
その人のおかげで平古場さんは、呆れたため息をつくくらい落ち着かれたようだった。

「……それで、大嫌いだった理由は?」

「え!まだ聞きますか?……いや、あの、本当に当時は小学生だったんで、さすがに私も意地悪されるのに耐えきれなかったというか……初めて会った時に──」

『ぷ、プリンスだ!』と感動した私に彼はにこやかな笑顔でまずこう言ったのだ。
『an ugly face』
今よりももっと英語の出来なかった私は、ニコニコと笑顔の方を信じ、彼の裏側にある毒には気付かなかった。

「──そして、彼に会うたびに私は自らアグリー詩織だよ!と、そういうもんだと思って名乗ったんです。アグリーが不細工とか醜いって意味だと気付いたのは、両親に注意されてからですよ、もうイケメンの笑顔に騙されてはいけないと悟ったのはあの時ですよ!」

「……つか、お前が馬鹿なだけだろぃ」
「ぶぷっ、間抜けなレベルは今も変わらなさそうな気がするだーね」

とりあえず、丸井さんと柳沢さんには後で後ろから膝かっくんでも仕掛けてやろうと心に誓った。

「……だが、それだけじゃないのだろう」

リョーマくんとともに驚愕してしまったのは、その声の主が今まで黙々と食事をしていたはずの手塚さんだったからである。

「あ、はい。その後も何回か嫌がらせを受けたので……仲直りのしるしだと花束をくれたと思ったら、芋虫が大量についていたり、大切なヴァイオリンの弦を切られたり……今思えば子供のいたずらなのかなと思えるんですが、当時は本当に嫌だったので……」

「……そうですか。それでウチの平古場クンをちらちら気にしていたんですね。謎が解けましたよ」

「うぅ、本当に申し訳ありません!まさかそんなに凝視してしまっていたとは……」

皆さん納得してくれたらしい。
とりあえず、平古場さんはもちろん沖縄の比嘉中学の人たち全員に頭を下げてから、夢野詩織と申しますと自己紹介しておいた。
……とりあえず、田仁志さんと知念さんの印象が強烈だった。
田仁志さんのお腹をさわさわと触りたくなったがセクハラになるので、我慢する。





それから暫く食事をしてから、榊おじさんの教えてくれた部屋に向かうことにした。
もちろん食事中に丸井さんと柳沢さんへの復讐は果たした。
現場を目撃していたジャッカルさんと木更津淳さんに苦笑されたりクスクス笑われたりしたが、後悔はしていない。

とりあえず、不機嫌そうな若くんに手を振ったら今までで一番深いんじゃないかというぐらいの大きな溜め息をつかれた。

「……俺は別に嫌がらせをしているわけじゃない」

「え……。ぷ、わかってるよ。若くんのはツンデレ──へぶっ!!」

「お前が余計なことを口にするからだろ、馬鹿!」

頬をぎゅむっと左右から手で挟まれて、アヒルみたいな口の形にされたので「し、真実だーね」とか柳沢さんの物真似したら、若くんと柳沢さん本人もいらっとしたらしく二人から頭をチョップされたのだった。

13/110
/bkm/back/top/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -