それにびくんっと身体を大袈裟に跳ねさせた詩織センパイを呆れた目で見る。
「……ホント、まだまだだね」
もちろん、ぽつりと呟いた台詞は拍手の音にかき消えた。
「いやぁ、ほんま一家に一台夢野さんやで。えぇわ、自分癒されるわぁ」
「お、オサムちゃん、何言うとんねん!いやでも、商品化したら俺も欲しいけど……」
「すみません、えくすたしらいしーさん、商品化する予定ないので、そんな顔で私を見ないでください」
「え!ドン引きっ?!ど、どんな顔しとった、俺?!」
四天宝寺の先生が詩織センパイの頭を撫でたと思ったら、白石さんが大声でショックを受けて。よくわからないけど、小石川さんと石田さんが慰めているようだった。
「えっと、夢野さん!でも本当にすごく良かったよ!……前よりも音が伸びてるというか……!」
「そうだにゃー。クラシックよくわかんないけど、俺も今の方が好きかも〜」
それから大石副部長が意を決したように詩織センパイに近付いて、英二先輩も続く。
「本当ですか!決意表明したとこなんで、そう言っていただけると嬉しいですっ」
本当に嬉しそうに目を細めて笑った詩織センパイは、どこか眩しかった。
「……決意表明?」
「あの時のあれだね」
俺を含め何人かが浮かんだであろう疑問を、不二先輩が尋ねる。すぐさま言葉を被せてきた幸村さんは、少し優越を感じているような笑みを口元に浮かべていた。
「詳しくは恥ずかしいので言えませんが──」
「しゃあないわ。泣いてたしな」
「泣いたもんな」
「……泣いてたからなぁ。……そりゃあ恥ずかしいよなぁ……」
「──ぎゃー!そこ三人お口にチャックー!!っていうか見てもないのに軽く口にしたことをさも見たかのようにーっ」
詩織センパイが真っ赤な顔で片手をパタパタと振る。
……泣いて決意表明をしたことを知っているらしい三人は、四天宝寺の財前とかいう人と、山吹の室町さん。それから不動峰の伊武とかいうブツブツうるさい人だ。
ふっと視線を戻せば、幸村さんが確認するように目を細めて三人を見ていたことに気付く。
……やっぱあの人、詩織センパイに執着しているみたいだね。
そんなことをぼんやり考えていたら、ふんっと比嘉中の金髪の人が鼻を鳴らして笑った。
「なんさーただのなちぶさぁか。それできさ、なちぶさぁはなんでわんのこと見てたさぁー」
不機嫌そうにそう続けて、つかつかと詩織センパイの前まで歩く。
「平古場クン、待ちなさい」と特徴的な髪型の眼鏡の人が止めていたが、平古場と呼ばれた人は足を止めなかった。
その勢いにビビってるのか、何かが苦手なのか後ずさっていく詩織センパイは、逃げ場を探すかのように後方にいた俺のシャツを掴む。
そして俺だと気付いたら、俺を盾にするように、素早く俺の背後に隠れたのだった。
「……王子と違うとわかっていても恐い……っ!言葉が難しいところもあのときと同じで……いやでもよくみたら似てないけどもっ沖縄の人だしっ」
ブツブツと何か独り言を言っている詩織センパイにため息をついた。
王子って何。
色々ツッコミたいところはあるが、どうやら目の前の平古場さんとやらもその不可解な態度にイライラしているようだ。
「……取り敢えず詩織センパイ、ちゃんと説明した方がいいんじゃない?」
平古場さん以外も気にしているみたいだし。と付け足しそうになった台詞は飲み込んで、深く帽子を被りなおしたのだった。
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