「ごめんなさい、すみませんでした」
「うんー……、ところで君ー……それ弾いてたぁ?」
ズキズキとする後頭部を抑えながら、道端で土下座している女の子の膝の上に置かれているケースを指差す。
このケースの形はヴァイオリンだ。
知ってる。同じクラスのオーケストラ部の子が持っていたから。
「……はぁ、お昼ご飯を食べる前になら、ここで少し」
「うあ、やっぱり君だったんだー見つけたCーっっ!」
嬉しさのあまり俺は彼女に抱き付いた。
いきなり俺が抱きついてくるなんて考えていなかったのか、女の子はバランスを崩す。
でも庇うようにケースだけは抱き締めていた。
「……あ〜、ごめんねぇー?」
「……い、いえ」
よっぽどヴァイオリンが大切なんだなってわかった。きっとすごく大事なものなんだ。
「君の音、とってもEーよねぇ。俺、君のファンになったんだよー」
「あ、ありがとう?」
戸惑ったように返してくれた彼女の右手を握ってぶんぶんと握手する。
「俺ね、芥川慈郎ー、ジローって呼んでね!」
「え、あ、うん、私は夢野詩織、です。……このマメ、何かスポーツでもやってるのかな……」
「うんー、詩織ちゃんの言うとおり、テニスしてるよー」
「いきなり名前呼びだよ、どうしよう!この金髪の子!……って、テニス?!否、私口に出してた?!」
今の前半部分もちゃんと口に出てたことを教えた方がいいかなと思って、教えてあげればカッと目を見開く。
うわぁ目大きいなぁ、ちょっと怖いけどー。
「……何してるんですか、芥川さん」
「あ〜」
急に声をかけられて顔をそちらへ向ければ、日吉が何故か難しそうな顔をしていた。
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