ジローがいねーと樺地が探し回っているのをいつものことかと横目で見てた。
んで、用を足したくなってトイレにいったわけだが。
トイレから出てきたらちょうど廊下で、詩織とジローと遠山に出会ったからびっくりした。
「……は?詩織じゃん!つか、なんでこの船に乗って──」
「うわぁ、岳人先輩ーっ!!」
さらに目を見開いて驚くことになったのは、詩織が半泣き状態で俺に抱きついてきたからだ。……いや、すがりつくってのが正しいのかもしんねぇけど。
「っ、どうしましょう、どうしたらいいですか?!跡部様、いや、榊おじさんは今いずこ?!ジロー先輩も金ちゃんも何回説明してもまともな返事くれなくて!胃が痛いんですっ、が、がが岳人先輩ぃーっ」
「だぁー!落ち着けよ!お前見てたら逆に冷静になってきたっつぅの。クソクソ詩織、大丈夫だ。な、大丈夫だって言ってみそ?」
正直、いないはずの詩織がこの船に乗っていて頭ん中パニックだったが鼻水ずるずる垂らしながら喚いている詩織を見ていたら、見事に頭ん中が落ち着いていた。
だから、背中をぽんぽんと撫でてやってから落ち着かせるように笑ってみる。
「……ふぅう、大丈夫、で……ずびっ」
「あ、クソクソ詩織!お前今俺のジャージで鼻水拭きやがっただろ!こら!」
「ふ、ふふふ、ごめんなさいっ」
怒ったらいつもみたいな間抜けな顔で詩織が笑う。
……ちょっとだけ安心した。
「あー!この向こうからえぇ匂いするでぇー!」
「……んー、まだ眠E〜」
「……お前らマジで自由だな」
食べ物の匂いにはしゃぐ遠山と詩織にもたれながら欠伸をしているジローを見ながら、俺に会うまでの詩織の苦労が見えて頭が痛くなった。
「……よしっ、監督と跡部には俺がちゃんと説明してやるからな!」
「岳人先輩素敵っ!頼りにしてます!私、今すごく岳人先輩お嫁さんにしたいです」
「な、何言って──って俺が嫁かよ!!クソクソ詩織の馬鹿!」
ドキッとしたのになんなんだよ!マジムカつく!
だけど、ふふっと小さく笑った詩織が元気になったようで、それ以上文句は出なかった。
……コイツに頼りにされたの初めてかもしんねぇ。
って。あれ、なんでこんな嬉しいんだろ……。
もやもやは、広間の扉を開けて視線の針に刺さったら綺麗さっぱりかき消えたのだった。
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