ぼんやりとする頭を必死に起こす。
僅かに感じる浮遊感のような独特な感覚。
「……ん〜むにゃむにゃ詩織ちゃん、おかC〜……!」
「ワイ、たこ焼きもう食べられへん〜」
「……んん?!」
すぐそばで聞こえた二つの声に飛び起きた。
上体を起こせば、どこか物置のような部屋の中。そして私に抱きつくように眠るジロー先輩と金ちゃんの姿。
この二人には既に慣れてきたが、さすがに目覚めには心臓に悪い。
苦笑してから、また意識を周囲に戻した。
……おかしい。
この微かな揺れ。
そして、充足感のある目覚め……。
「……ま、待って!船が動いてるっ?!」
大きく叫びながら、部屋の壁にあった小さな丸窓から外を覗けば、大海原が見えた。
波の流れと微かな揺れから船が既に出航していることがわかる。
「……待って待って待って!じ、ジロー先輩!金ちゃんっ!!」
かくかくと震えながら、眠っている二人の体を揺らした。
記憶を辿れば、私は青学と不動峰の皆が到着した頃、榊おじさんに挨拶してからおじさんが手配してくださっていた、ホテルに徒歩で向かうつもりだった。
一週間そばにいれないということで、おじさんお墨付きのヴァイオリン奏者の方たちと練習できる環境まで整えてくださっていたのだ。
ホテルでのその方たちと待ち合わせの時間も迫っていたし、合宿参加校の人たち全員に挨拶できなかったが、深司くんに光くんが善哉さんだと紹介できたからよしとしたわけである。
……そうしたら、豪華客船の中がすごいと金ちゃんが叫んでいて。
少しだけ探検しようやーと誘われた。
そこにジロー先輩も加わり、ほんの少しだけ……と。
二人の可愛いおねだりに根負けしてしまったわけだ。
「…………どうしよう」
今すぐ榊おじさんか跡部様を探さなければ。
起きたけれど、少し寝ぼけているらしい二人を連れて、私は賑やかな声がする方に歩いていくことにした。
パンダリュックを背負い、ヴァイオリンケースを胸に抱いて。
……妙な緊張感は、この状態になってしまったことへの焦りなのか、手のひらの汗が気持ち悪かった。
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