熱い夏はより太陽に近づく
──陸上部の大会と日にちがずれているとのことで、流夏ちゃんとテニス部の関東大会初日に来ていた。
もちろん若くんたちの応援をするためである。ただ知り合いになったテニス部の人が増えたので、心境としては複雑だ。
みんながみんな勝ち進めるならいいのに。
入口で会った十次くんたちと別れた後、間もなく始まるという氷帝と青学の試合に向かう。


「……あ、夢野さん。こっちだよ〜」

「滝先輩!……えっと流夏ちゃん、お話した氷帝の滝先輩だよ。滝先輩、この子が私の親友の三船流夏ちゃんといいます」

「どうも。詩織がお世話になっています」

見学の席を取ってくれていたらしい滝先輩が手を振ってくださったので、近付いて流夏ちゃんを紹介する。
流夏ちゃんは丁寧に頭を下げていた。
この時私は知らなかった。
二人がほぼ同時に
(男みたいな子だなぁ〜……)
(女顔の先輩だなぁ。まぁうちの学校にも負けてない人いるけど……)
なんてことを笑顔の裏で考えていたなんて。


「あ、詩織ちゃんいたいたー!」

「おぉ!タマちゃんとちーちゃん!でもよくこんな前の席に……」

「ふふ。報道部の特権よ!」

タマちゃんの後ろにいたちーちゃんが、報道部と書かれた腕章を誇らしげに掲げる。
そうか、ちーちゃんは精力的な報道部だった。と思ったところで「あなたは立海の三船流夏さんね。来週から始まる陸上の大会楽しみにしているわ」と流夏ちゃんに手をさしのべる。
どうやら流夏ちゃんのことを知っているようだ。
その後みんなで軽い紹介をし合ってから仲良く横並びに座ったのである。

その時、ちーちゃんから衝撃的な話しを聞いた。
私が入院しているときに行われた都大会で、なんと深司くんのいる不動峰と十次くんのいる山吹が対戦し、事故で山吹の不戦勝だったというではないか!
深司くんが一切事故のことを教えてくれなかったことも相当なショックだけど、あの二人がお互いを気づかないままでいる状態も吃驚した。
思わず十次くんにメールしましたとも。

それからちーちゃんによれば不動峰は全員この全国大会に出場しているようなので、怪我とかは大丈夫なんだろうということだった。
……後で深司くんたちを探さなければ。


「……あぁ、赤澤君、金田君。んふっ、座席取りご苦労様でした」

「ふん。全員来たのか」

「えぇ。憎き青学とあの氷帝の一戦ですからね。観て損はありませんよ。裕太君のお兄さんにも大変なお礼を頂きましたから……っとおや?」

「……こ、こんにちは」

聞き覚えのある声に後ろを振り返ったら、観月さんや裕太くんたちがいた。
知らない人が二人ほどいるが、様子から察するにルドルフのテニス部の人たちのようだ。
とりあえず悪そうに笑う観月さんが苦手(乾さん然り柳さん然り、人の腹を探ろうとしている感じが小心者にはなんとなく怖い)なので、引きつった笑みを浮かべたら、赤いはちまきが特徴の木更津淳さんにクスクス笑われた。

「……あ、あのさ、夢野……クッキー、その、う、うま──……っ、全部食べたから!御馳走様!」

「あ、口にあったんなら良かったにょ!ほは、はの、りゅかひゃま、にゃんで私の頬を抓ってらっひゃるのでほう。にょ!とか言っちゃったみょう、語尾変な子みたいになっちゃひまひたぎゃ」

「あはははー。だって私の知らないテニス部増えてるみたいなんだけど。え、何?入院してなかった?」

裕太くんがせっかく話しかけてくれたのに、流夏ちゃんの怒りにより私の意識は、どうやって流夏様のご機嫌を直すかに傾く。
なんというか、もはや浮気のばれた夫婦の会話のようだ。


それから滝先輩が青学の大石はどうしたんだろうと呟いて、その後青学は補欠になっていたらしい桃ちゃんが試合に出場することになった。


──そこからは、もう頭の中が真っ白になるくらいのもので。


私は一生、この関東大会のすべての出来事を忘れないだろう。
きっと全国大会が終わった時には、もっとすごい衝撃があるかもしれない。

でも、今は本当にみんなの試合風景が頭の中に駆け巡る。

跡部様との試合途中で肘の痛みに倒れた手塚さん、若くんとリョーマくんの試合。

……氷帝は青学に負けてしまったけれど、その後もずっと私は関東大会の試合を応援した。

千葉で出会った六角のみなさんや、山吹、不動峰……他にもたくさんの学校があって、テニスに真摯に向き合っている姿に感動した。

もちろん、決勝の青学対立海も瞬きすら勿体無いぐらいで。
……みんなの試合に、宍戸先輩がレギュラー復活をされたあの日のように、心が躍った。

「……っ、弾きたい」

この感動の感謝を伝えたい。
私のヴァイオリンで。
私のこの心を。



本当にキラキラ輝いて、とても眩しい彼らに出会えて幸せだ。

お父さん、お母さん、私、もう一度コンクールに出るから。絶対に。


誰にも恥ずかしくない演奏を
裏も表もない真っ直ぐな音で

自分の道を進むんだ。






「…………なんだ、コレは」

「ポクポン人形だよ。知らない?厄除けというかお守りだよ!で、こっちは手作り砂袋!ふふふ、ほら甲子園でよくやってるから……」

「……はぁ、夢野」

「あ、あの夢野さん。テニスコート……土っていうか、う、うん、たぶん掘り返したりしたら、その」

「長太郎、はっきりいってやらねぇと激ダサだぜ?」

若くんと鳳くん、宍戸先輩に揃ってため息をつかれた。

「あのねぇ、詩織ちゃん〜。穴掘ったら怒られちゃうC〜」

「……ウス」

「詩織、やっぱアホだろ。いやわかってたけどよ」

「こら岳人、そないはっきり言うたらあかん。詩織ちゃんなりに一生懸命考えてくれたんやで……ぶふっ」

「忍足先輩に今殺意湧きました。二度とその丸眼鏡にはキュンっとしないとここに誓うっ」

「……ま、まぁまぁ。夢野さんも一生懸命応援してくれたんだから〜」

「ふん、夢野。有り難く受け取っといてやるよ。……じゃてめぇら帰るぞ」

フォローしてくれた滝先輩と頭をぽんぽんしてくれた跡部様が神々しく見えたのも良い思い出である。

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