「ふざけんなっ!俺はもう退部したんだよっ!テニス部とは関係ねぇのになんで他人の試合なんか見なきゃいけねぇんだ!おらっ離せ!」
「絶対ぜったい離しませんですーっ」
「……可愛い壇くんが何故か仁さんに絡んでる……そして仁さんがテニス部にいたらしい驚愕の事実……」
関東大会開催場所の入口で逃げようとする亜久津先輩の腕を引っ張っていたら、すぐ横に氷帝の夢野さんがいた。
驚いた顔で僕と亜久津先輩を見つめながら、ブツブツとあの独り言を口にしている。
「あ、詩織!ちょっとどこ行ってんの!ってアンタは……!」
「流夏ちゃん、仁さんがテニス部だったって!壇くんが相変わらず可愛いけど、壇くんに仁さんが押され気味で、壇くんすごいよ!ちょ、面白いものをみた!」
「お前らは……つか、相変わらずうるせぇよ!チビっっ」
「だからチビじゃなくて夢野詩織ですってば!」
何やら騒がしくなる。
僕はただ呆然として、一生懸命頭の中で整理した。
どうやら亜久津先輩と夢野さんは知り合いだったようだ。
夢野さんに駆け寄ってきたつり目の人は、彼女とどういう関係なんだろうと考える。
身長が高くて、すらりとした長い足がかっこよくて羨ましかった。
「壇クンいたいたー!って、あっれー?詩織ちゃん、関東大会は見に来れたんだねー!いやぁ嬉しいよー……って、ん?こっちの子は……あの時の回し蹴りした照れ屋な女の子だね!もしかして詩織ちゃんのお友達かい?」
「…………詩織」
「ひぃ!流夏ちゃん、待って!首を絞める前に私の話を聞いて!ぐふぅっ」
近づいてきた千石先輩の台詞にびっくりして、女の人ですか!とつい叫んでしまったら、夢野さんの首を絞めていた人はすごく怒ったような笑顔を向けてくる。
……あまりのそれに亜久津先輩の背後に隠れちゃったのは内緒です。
それから南部長や室町先輩が来て、夢野さんと会話していた。
僕も体調は大丈夫ですか?と尋ねたりして。
夢野さんの笑顔が合宿の時と変わらなかったのでホッとした。
……いえ、合宿の時よりも明るく笑っていた気がしたのです。
また亜久津先輩とどうやって知り合ったかは聞けなかったですが、夢野さんはすごく亜久津先輩と越前くんの試合を見たかったと嘆いていた。
その試合を経て、僕がテニス部にマネージャーとしてではなく選手として入部したと伝えたら、とても喜んでくれる。
なでなでと頭を撫でられて、やっぱり年下扱いなのかなと落ち込みつつもどこか嬉しくて。
やっぱり夢野さんは温かい人だなと思いました。
……その後ふてくされていた亜久津先輩の頭をなでて怒られていたのは、目撃した僕だけの秘密です。
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