「あ……アヒルみたいな人だーね……あ、やば、移っちゃった!」
「生意気な女子だーね……」
柳沢がむっと唇を尖らせるが、観月たちと対峙していた不二の横にいた女の子は、視線を柳沢から僕に移して口を開けたまま固まった。
大きな目をこれでもかというくらい見開きながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返し「……え?あ、あれ??ん?え?」と何かブツブツ口にしている。
隣ではノムタクが裕太に「だから弟君って呼ばないでくださいっ!」と詰め寄られていた。……まぁこれはいつものことなんだけど。
「……夢野さん、どうかしたかい?」
「うちの木更津君の顔に何かついているんですか?」
不二と観月が訝しげに首を傾げる。
けど、そんな顔で僕を見られても、彼女と初対面の僕が答えられるわけないんだけど……。
「え、やっぱり木更津さん?!……え、でも千葉の海でお会いした時と何やら雰囲気が……美しい髪も切られて……いや、その前に六角中学では……?」
二人にオロオロしながら吐き出すように呟いた彼女に、あぁなるほどと合点がいく。
「……僕は木更津淳。クスクス、たぶん君が会ったのは僕の双子の兄、木更津亮の方じゃない?」
「な、なんと?!」
馬鹿みたいに大声あげて驚いた彼女にまた笑ってしまった。
「……へぇ。それって、もしかして六角中に出会ったってことかな?だとしたら、佐伯にも会った?」
「え、不二さん……?はっ!!類は友を呼ぶっ?!確かにやたら二枚目でしたけど、佐伯さん!」
「ふふ、それ僕も誉められたと思っておくよ」
相変わらず恐ろしいくらいの綺麗な笑みを浮かべた不二に、観月が小さく舌打ちしていた。
ノムタクに絡んでいた裕太は、話についていけなくなったのか、柳沢にどういうことかと尋ねている。
それから柳沢とノムタクも順に名乗って、彼女も夢野詩織だと自己紹介していた。
その時観月が彼女は奇跡の少女の夢野さんですよと繰り返していたが、正直それはどうでもいいと思う。
それにそれを改まって知らせるのって、彼女に失礼なんじゃないかなと思った。
《……っていう流れで夢野詩織って子と知り合ったんだけど。あの子、亮のタイプだよね》
《よくわかんない流れだけど、それだけ彼女がテニス部に縁があるってことか。……で、返すようだけど、淳の好みのタイプだろ》
《……違うんだけど。それに大体青学の不二がさり気に牽制かけてきてたし。裕太も彼女から返してもらった衣服が入っていた紙袋の中に手作りクッキー入っていたらしくってさ。なんかまんざらじゃなさそうなんだよね。嬉しそうっていうか》
《ふぅん。……確かに可愛い子だとは思うけどね》
《ほら亮の好みだろ》
《……こうやってメールしてきてる段階で淳も興味持った証拠だよな》
淳『も』かよと口角を上げる。
……あぁ、でも確かに少しは興味が出てきた。
だけどこのままもう二度と会えない可能性もあるし。その興味がいつまで続くかはわからないけれど。
ただ偶然にも離れて暮らしている双子の兄弟が、同じ女の子に興味を持つなんて珍しいことだと思う。
だからなんとなく
また彼女とはすぐに再会するような気がした。
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